14SSコレクションのショーのオープニングを飾ったシャツとパンツは、滲みのある大きな格子柄が強い印象を与えた。その柄は、板締めと捺染(プリント)を合わせたものだった。「若い人が、染めって古いという印象を持っている気がしているんですよ」。だが、高橋はその古さがとても格好いいと感じている。
「27歳って若いじゃないですか。表裏一体で、フレッシュな分、浅いんですよ」。よく自覚していると思うが、はたして、そのことが現実的なものづくりとどうかかわっているのか。「伝統と若さをぶつけると、うまくバランスがとれるのではないかと思い、どっしりした染めを選び、一方でポップな柄を選んだ」と、明かしてくれた。イッセイミヤケというブランドの重さに、若い高橋が向かっていく姿勢、それが、デザイン上の方法“極端と極端をぶつける”に、つながっていたのだった。
さらに、染めへの“愛着”は続く。「染めの印象が古いから、若くしたいんだったら、染めを省けばいい」と、短絡的に考える風潮があるという。「実際はそうではなくて、古いものをちょっと変えれば、今の時代のものになるんです」
先のオープニングを飾った染めについて、深く解説してもらった。一般の人にとって、技術の見えない部分はわかりにくいものだ。染める時は反物になっており、板締めは、布を何回も折って板に挟んで染める。折る回数の検討。そして、布の選択、つまり、布に撚りがかかってシボができているのか、平滑なのかでも、染めた際の滲みが変わってくる。染めたあとは、洗って、乾燥する。次に手捺染(ハンドプリント)の工場で、黒の格子の白地部分を染める。分業になっているので、今度は、蒸し屋に持って行き色を定着させる。というように、工程は、簡単に説明してもらっただけでも、これだけある。染めには染めの良さがあるし、その技術を継承していくことも、次世代の大切な役目だ。
高橋は考える。若い人にもっと日本の伝統技術を知ってもらいたいと。「若い人って、色と形だけで見てしまって、それこそ、染めとプリントの違いがわからないじゃないですか。でも、それでいいんです。それがきっかけでうちの店に入って、店員さんが話して、凄いなと感じてもらえば、間口を広げていかなければ」。使命を感じているようだ。
こうして、話を聞いていくと、高橋の好奇心がファッションだけでなく、建築、デザイン、芸術と幅広いことがわかる。加えての海外生活。その経験がさらに見識を深めた。学生時代から既に、三宅一生氏が築いた社内文化と共通するベースを持ち合わせていたと思うが、「会社に入って、ファッション以外のことに興味を示すかが、いかに大事かということがわかった」と、しみじみと語る。目前の仕事だけに埋没している暇はない。あらゆる方面に向かって、常にアンテナを張っていなければならない。
■スタートに立ったばかり
学生時代を知っている青年が、世界の表舞台に躍り出た。正直言って嬉しい。デビューショーは、ドキドキして見てしまったし、最後に挨拶に出てきた時は、眩しく感じた。もちろん、日本人として応援態勢だが、それゆえに厳しい意見も言わせてもらいたくなる。なぜなら、日本のデザイン界を担う人材の1人として期待しているからだ。あるメディアに「イッセイミヤケメンを率いる高橋悠介」と書かれていたが、まだ、船出したばかり。デザイナー=ブランドを率いる、という短絡的な図式はあてはまらない。まだ、率いらせてもらっている状況と、辛口トークを展開させてもらった。
デザインは、1人でできるものではない。技術スタッフやショップスタッフ、店頭ディスプレイなどに加え、工場の人々にも支えられている。と同時に、またそういう人達に対して、デザイナーは、大きな責任を負っている。とはいえ、名前を張ってチーム全体持っていこうという意志は、相当なもの。
三宅一生氏の鋭い眼にかなうコレクションをつくっていく厳しさにも、日々直面していることだろう。本人も言っていたが、「スタートに立ったばかり」、これからだ。
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