死後、才能が世に認められるということは、アートの世界では時として起こるーー近年、その顕著な人物として挙げるならば、女性写真家ヴィヴィアン・マイヤーだろう。そんな彼女の物語を収め、本年度「アカデミー賞」にて長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたアート・ドキュメンタリー映画『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』が今秋、日本で公開されることが決定した。
物語の発端は、07年、シカゴ在住の青年ジョン・マルーフがオークションで大量の古い写真ネガを購入したことに始まる。その一部をブログにアップしたところ、熱狂的な賛辞が続々と寄せられた。この現象を世界各国のメディアは大々的に報じ、さらにその才能は広く知られるところとなり、その写真をまとめた写真集は全米売り上げでNo.1を記録。ニューヨーク、パリ、ロンドンで展覧会が開かれると人々が押し寄せた。
写真の撮影者の名前は、ヴィヴィアン・マイヤー。話題になった当時はすでに故人、生前の職業はナニー(乳母)だった。15万点以上の作品を残しながら、1枚も公表することがなかったという。
ヴィヴィアン・マイヤーが大きな注目を集めた理由は、優れた写真の才能の他にもう一つある。不詳であることーー生前、偽名を使って素性を隠していたことで、彼女が何者で、どこから来て、どんな想いでシャッターを切っていたのか、そのミステリアスな人物像も彼女の魅力となっている。「何故、これほど優れた写真を撮ることができたのか?」、「なぜ誰にも作品を見せなかったのか?」、その才能の痕跡だけが現在に残されたのだ。
20世紀の写真史を変えていたかもしれない、と言われるヴィヴィアン・マイヤー。本作は、ヴィヴィアンが誰にも見せることが無かった15万枚にもおよぶ、当時のニューヨークを収めた貴重なポートレイトの数々を紹介。さらに彼女のミステリアスな生涯を、関係者のインタビューや系図学者のリサーチによって紐解いていく。
監督は、ヴィヴィアン・マイヤーという才能を見つけ出した張本人ジョン・マルーフと、マイケル・ムーア監督作『ボウリング・フォー・コロンバイン』('02)でフィールド・プロデューサーを務めたチャーリー・シスケルが務めている。
映画『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』は10月、シアター・イメージ・フォーラムほか全国にて順次公開。