ブラジルが誇る世界的なアーティスト、JUM NAKAO(ジュン・ナカオ)。サンパウロにアトリエを持つ彼は、名前からも分かるように日本にルーツを持つ日系3世である。そんな彼のクリエイションは、ファッションブランドを始め、コスチュームデザイン、アート、家具や建築、アニメーションなど幅広く多岐に渡っている。
ブラジルの一流企業はもちろん、NIKE(ナイキ)やコカコーラなどの世界的な企業からオファーが引きも切らない中、12年にはロンドンオリンピック閉会式のディレクションを担当。次の開催地・ブラジルの魅力を余すところなく表現した、サッカー界の至宝ペレも登場するなど、すばらしいパフォーマンスを覚えている人も多いだろう。
そんなJUM NAKAOが、伊勢丹新宿にて開催された「Brasil Fantastico! 祝彩楽園ブラジル」(15年6月3日から6月9日)で、日本古来の大麻布を甦らせた「麻世妙(まよたえ)」とコラボレーションを行った。「JUM NAKAO × 麻世妙展」のため30年ぶりに来日した彼は多忙な中、クリエイターを志す学生が集う文化服装学院で特別講義を開催。その後に、自らのクリエイションについて、また麻世妙作品について、その思いを話してくれた。
■見えるものと見えないものでデザインは作られている
ーー先ほどの講演(文化服装学院にて学生を対象にした特別講義)では「デザインの過程において、見えるものと見えないもの」というテーマでしたね。なぜこのテーマを選ばれたのですか?
JUM NAKAO:自身のクリエイションにも共通しているのですが、文化服装学院の生徒たちに言いたかったことは、デザインとは、目に見えるカタチ(作品)だけ作ることを指すわけではないことです。作りあげるまでの苦難や歓喜といった感情、アイデアソースとなった数々の記憶などを、見えないものも含めてデザインしているのだということを伝えたいと思いました。
ーーその言葉で、パリ博物館のインターナショナルキュレーターから今世紀最も注目すべき作品とも称された、JUM NAKAO氏のファッションショー「ア・コストラ・ド・インビジヴェル」('04)を思い出しました。繊細で美しい紙のドレスに見惚れていると、突然モデルたちがドレスを引き裂くという衝撃の展開! 150人のスタッフが制作に700時間を費やした作品が、一瞬にして紙片へと変わっていく、非常に記憶に残る作品でした。
JUM NAKAO:「物質世界をはるかに超えるファッションという存在、その目に見えない絆を表現する」というメッセージを伝えるためのパフォーマンスでした。作品で大事なのは、何を伝えたいのかというメッセージです。繊細で優美なペーパードレスを一気に切り裂くことで、7分間という短いショーの時間が観る者にとって忘れられない永遠の時間となるわけです。また想像していなかったのですが、ドレスの紙片を求めて多くの観客がランウエイにまで押し寄せたのです。
ーーただの紙片を得ようと集まった人々は、紙片を観るたびに美しいドレスの記憶が呼び起こされる…。JUM NAKAO氏のメッセージがしっかりと伝わっていることを感じます。またご自身は紙やプラスチック、またゴミ袋など、どのような素材でも作品へと昇華されています。ご自身が考える、作品と素材との関係をお聞かせください。
JUM NAKAO:先ほどもお話しましたが、大事なのはメッセージ。何を伝えたいかが先で、そこから素材を選択していくのです。もちろんクライアントからこの素材、この要素でプロジェクトに関わって欲しい、などの依頼はあります。その場合も、そのプロジェクトの本質を踏まえて、カタチやストーリーを構築していきます。今回の「JUM NAKAO × 麻世妙展」に関してもそうです。
後編に続く。