ここ数年「スタンダード」なアイテムが脚光を浴びている。雑誌ではスタンダードアイテム特集が組まれ、良質な定番アイテムを紹介するウェブマガジンが国内にも誕生している。
不安定な経済や未曾有の自然災害を経験した社会は、本当に必要なものとは何かを考えると共に、シンプルなライフスタイルに価値を見出しているのだろう。
こうした時代背景にあって、三越伊勢丹は自社のオリジナルブランド「BPQC」で、シンプルな上質さを追求することにした。クリエーティブディレクターにSIMONE INC.代表のムラカミカイエを迎え、リブランディングする。
ムラカミ氏といえば、イッセイミヤケを経てこれまでに国内外多数の企業ブランディング・コンサルティングを手掛け、「SAVE JAPAN! PROJECT」の発起人としても注目を集めた。伝統と歴史を持つ百貨店と、時代の先駆者であるクリエーティブディレクターとが組んだことにより、どのような化学反応が生まれたのだろうか。ご本人に聞いた。
―「BPQC」のブランディングを担当するにあたって、大切にされたことはなんでしょうか。
今回のリブランディングは、藤巻さん(故・藤巻幸夫氏。2000年、BPQCを立ち上げ)が作られた、BPQCのライフスタイルブランドとしてのDNAを基礎としながら、デザインから販売手法までのすべてを今の時代にあわせて更新する作業を行いました。まず着手したのは、世界的な大量消費が叫ばれる中で「いま社会にとって、お客様にとって本当に必要なものは何か」を価格、品質、センスといったあらゆる面から向き合い、スタッフと議論することでした。こうした流れは、この産業が持つ本質的な問題に真摯に向き合うことでもありますが、そこを避けては通れない。安くて見栄えはいいけれど、来年は着なくなるような衣服を提供することに意義があるのか。また、そうした流れに飲み込まれることによって、提供する側はもちろん、お客さまの品格が左右されることはないのか。そういった問いに、三越伊勢丹ならではの考え方を「BPQC」を通じて、明示することが必要だと考えました。
―“三越伊勢丹ならではの考え方”をアイテムに落とし込むにあたって参考にしたものはありますか。
今回のプロジェクトを指揮されている松尾専務や、これまで三越伊勢丹のキャンペーンの仕事をご一緒させていただいた宣伝部の西村さんから伺っていた、三越伊勢丹の歴史や、お客様とのエピソードがとても印象に残っています。源泉となったのは、そういった話の中に出てくる「品性」と「粋さ」を兼ね備えた「山の手」感覚。昭和のモダンガール、モダンボーイを今の時代に置き換えたらどういうブランドを好むだろう?といったイメージです。また、幼少期に毎週のように母親に伊勢丹に連れて行かれていた個人的な記憶が、今回のBPQCのブランドの匂いというか、エスプリのようなものにとても影響していると思います。
現実的には、せっかく三越伊勢丹のオリジナルブランドに携わるのだから、同社のバイヤーさん達の見識、蓄積されている膨大なデータ、取り組みのある生産工場のコネクションなどの資産をあらゆる面で活用しています。その上で、ブランドの核となる部分をしっかりと構築するために、すべての可能性を一度机上に上げた後、そぎ落としていくという作業に時間を掛けました。BPQCは上質なスタンダードを提案していくブランドであり、三越伊勢丹にとってのスタンダード、つまり基準であり、基本でなくてはなりません。
2/2に続く。