N&R Foldings代表でインダストリアルデザイナーの川本尚毅氏。イギリスの大学院RCA卒業制作で発表したオリシキ(ORISHIKI)が注目されるも、リーマンショックの影響で帰国を余儀なくされる。ORISHIKI量産の夢を半ば諦めかけるも帰国後、国内有名ブランドやスプツニ子!などのアーティストとのコラボレーションで再び注目を集め、現在「METoA Ginza」とのコラボレーションクラッチバッグを限定販売中。
企業やアーティストから多く声が掛かる所以は、アイディアを具現化できる“物が作れる”デザイナーとしての強みにあったようだ。
ーービザの関係でやむを得ず日本へ帰国され、インダストリアルデザイナーとして活動を始められたわけですが、年齢は30歳、会社勤務の経歴もなく就職するなら中途採用。不安は大きかったのではないですか?
そうですね。日本でデザイナーがフリーで好きな物を作り続けるっていうのは、ロンドンよりも難しい環境だろうと想定していて。どこかデザイン事務所に勤め、個人的なプロダクトの開発は無理だろうと思い込んでいました。そうなったらそれはそれで、と前向きには考えていましたが、継続していたORISHIKIをなんとか引き継いで欲しいという思いがあったので、自由に使っていいし何かチャンスがあれば活用してくれとロドリゴに託してロンドンに置いて帰ったんです。
ただ結果的には、デザイン事務所に勤めることはなく、ずっとインディペンデントで仕事を請け負い続けて、今に至ります。ORISHIKIを商品化するために会社を立ち上げましたが、ロドリゴも私もそれぞれのクライアントワークを独立的に手掛け、新しいプロダクトを開発しています。コラボレーション企画の際は、メイン・サブに分かれて違いに補完するかたちで共同制作を。3Dプリンター・カッティングプロッターなど世界中どこにいてもデータ共有できますし、ロンドン・日本それぞれで成果を出すことで会社として価値を生み出すこともできる。実は今はロドリゴが故郷のメキシコに帰って、ロンドンは別のインダストリアルデザイナーに変わり、世界三拠点になりました。場所と場所を繋ぐことで新しいものを生み出したり、面白いアイディアを提供することが目的です。
ーー商品開発だけでなく、スプツニ子!さんなどアーティストの作品にも多く携わり、インダストリアルデザイナーとして活動の幅を広げているのが印象的です。
RCAの後輩だったスプツニ子!とはでロンドンで知り合いました。彼女は頭の中にアイディアがたくさんあって、一緒に制作することで僕にとってもスペキュラティブなアート作品に挑戦したり、異業種の様々な分野の方に会える機会があったりととても有り難いですね。
アーティストが描く抽象的なアイディアを形にしていく過程は、実際のマテリアルやデータに変換していく作業が難しいんですが、勉強にもなります。ミーティングを重ねて要望を引き出すというよりも、女の子同士の他愛もない世間話の中でアイディアを聞き、どうすれば女性が魅力的と感じるのかを考えます。
スプツニ子!×川本尚毅氏の共同制作作品
例えば、国内ブランドとの共同でクラッチバッグを制作した時も、普段は僕と全く接点のないような、綺麗で感度の高いオシャレな女性が「持ちたい!」と言って喜んでくださる光景を目にして、今まで考えたことのなかった価値を生み出すことができること、意外な自分の得意分野にも気付かせてもらえましたね。ファッション、アートなど異業種から学ぶことはたくさんあります。
「ORISHIKI」クラッチバッグの構造
ーー個人的な意見ではありますが、アート作品、特に現代アートを見た時、作品の意味を読み解くことや作り手の意図を深く理解するのは難しいことがあります。川本さんのようにアーティストのアイディアを実際に形にするというのは、鑑賞以上に難しいだろうと想像できるのですが、そのスキルは経験として養われたものなのでしょうか?
学生時代にお手伝いをしていたAITでの経験が基盤にあるのかなと今になって思います。アーティストのアイディアを聞いて、技術や機材を使って具体的に物に落とし込むことができる“物が作れる”デザイナーというのは重宝されました。そこで多くの作品に触れ、様々なジャンルと携わることで幅を広げていき、柔軟に要望に応えられるクライアントワークに繋がっているのかもしれません。
ーー川本さんの作品を目にする機会がますます増えており、これからの活躍にも期待していますが、ご自身の今後の展望を聞かせてください。
ORISHIKIの量産が当初からの目標なので、コストの面でまだまだ問題はありますが、少しずつ発展させていきたいです。
また、ずいぶん現実的な話にはなってしまいますが、会社として資金繰りを良くして、個人ではなくチームで動かすものづくりにも力を入れています。クリエイティブに没頭して、コンセプトだけを重んじたデザイナーでは今の時代に適応できませんし、世の中のお金の流れを勉強した上でビジネス面も向上させるというのは会社として重要だと思っています。ましてや自分は会社の長であり、スタッフの生活も抱えているわけですから。ただ言われたものを納めることが良いとは思わないので、自分のアイデンティティーを表現するクリエーションとのバランスが大切ですね。
クライアントワークを手掛けながらも、僕の核となるのはORISHIKI。クリエイティブな面を磨き続け、より良いものづくりに取り組むために、会社としてレベルアップしていくことが今の展望です。
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企業やアーティストから多く声が掛かる所以は、アイディアを具現化できる“物が作れる”デザイナーとしての強みにあったようだ。
ーービザの関係でやむを得ず日本へ帰国され、インダストリアルデザイナーとして活動を始められたわけですが、年齢は30歳、会社勤務の経歴もなく就職するなら中途採用。不安は大きかったのではないですか?
そうですね。日本でデザイナーがフリーで好きな物を作り続けるっていうのは、ロンドンよりも難しい環境だろうと想定していて。どこかデザイン事務所に勤め、個人的なプロダクトの開発は無理だろうと思い込んでいました。そうなったらそれはそれで、と前向きには考えていましたが、継続していたORISHIKIをなんとか引き継いで欲しいという思いがあったので、自由に使っていいし何かチャンスがあれば活用してくれとロドリゴに託してロンドンに置いて帰ったんです。
ただ結果的には、デザイン事務所に勤めることはなく、ずっとインディペンデントで仕事を請け負い続けて、今に至ります。ORISHIKIを商品化するために会社を立ち上げましたが、ロドリゴも私もそれぞれのクライアントワークを独立的に手掛け、新しいプロダクトを開発しています。コラボレーション企画の際は、メイン・サブに分かれて違いに補完するかたちで共同制作を。3Dプリンター・カッティングプロッターなど世界中どこにいてもデータ共有できますし、ロンドン・日本それぞれで成果を出すことで会社として価値を生み出すこともできる。実は今はロドリゴが故郷のメキシコに帰って、ロンドンは別のインダストリアルデザイナーに変わり、世界三拠点になりました。場所と場所を繋ぐことで新しいものを生み出したり、面白いアイディアを提供することが目的です。
ーー商品開発だけでなく、スプツニ子!さんなどアーティストの作品にも多く携わり、インダストリアルデザイナーとして活動の幅を広げているのが印象的です。
RCAの後輩だったスプツニ子!とはでロンドンで知り合いました。彼女は頭の中にアイディアがたくさんあって、一緒に制作することで僕にとってもスペキュラティブなアート作品に挑戦したり、異業種の様々な分野の方に会える機会があったりととても有り難いですね。
アーティストが描く抽象的なアイディアを形にしていく過程は、実際のマテリアルやデータに変換していく作業が難しいんですが、勉強にもなります。ミーティングを重ねて要望を引き出すというよりも、女の子同士の他愛もない世間話の中でアイディアを聞き、どうすれば女性が魅力的と感じるのかを考えます。
スプツニ子!×川本尚毅氏の共同制作作品
例えば、国内ブランドとの共同でクラッチバッグを制作した時も、普段は僕と全く接点のないような、綺麗で感度の高いオシャレな女性が「持ちたい!」と言って喜んでくださる光景を目にして、今まで考えたことのなかった価値を生み出すことができること、意外な自分の得意分野にも気付かせてもらえましたね。ファッション、アートなど異業種から学ぶことはたくさんあります。
「ORISHIKI」クラッチバッグの構造
ーー個人的な意見ではありますが、アート作品、特に現代アートを見た時、作品の意味を読み解くことや作り手の意図を深く理解するのは難しいことがあります。川本さんのようにアーティストのアイディアを実際に形にするというのは、鑑賞以上に難しいだろうと想像できるのですが、そのスキルは経験として養われたものなのでしょうか?
学生時代にお手伝いをしていたAITでの経験が基盤にあるのかなと今になって思います。アーティストのアイディアを聞いて、技術や機材を使って具体的に物に落とし込むことができる“物が作れる”デザイナーというのは重宝されました。そこで多くの作品に触れ、様々なジャンルと携わることで幅を広げていき、柔軟に要望に応えられるクライアントワークに繋がっているのかもしれません。
ーー川本さんの作品を目にする機会がますます増えており、これからの活躍にも期待していますが、ご自身の今後の展望を聞かせてください。
ORISHIKIの量産が当初からの目標なので、コストの面でまだまだ問題はありますが、少しずつ発展させていきたいです。
また、ずいぶん現実的な話にはなってしまいますが、会社として資金繰りを良くして、個人ではなくチームで動かすものづくりにも力を入れています。クリエイティブに没頭して、コンセプトだけを重んじたデザイナーでは今の時代に適応できませんし、世の中のお金の流れを勉強した上でビジネス面も向上させるというのは会社として重要だと思っています。ましてや自分は会社の長であり、スタッフの生活も抱えているわけですから。ただ言われたものを納めることが良いとは思わないので、自分のアイデンティティーを表現するクリエーションとのバランスが大切ですね。
クライアントワークを手掛けながらも、僕の核となるのはORISHIKI。クリエイティブな面を磨き続け、より良いものづくりに取り組むために、会社としてレベルアップしていくことが今の展望です。
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