ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DSMG)は、エシカルブランド「カルミナ・カンプス(Carmina Campus)」をフィーチャーしている。「メイド・イン・アフリカ」ラインの新作がそろう。同ブランドは再利用素材を用いたバッグやアクセサリーなどをデザイン。来日したデザイナーのイラリア・ヴェントゥリーニ・フェンディに話を聞いた。
――今回DSMGで発表しているコレクションについて教えてください。
「メイド・イン・アフリカ」ラインは、ケニアで開発・生産されているバッグです。サファリテント用の丈夫なキャンバス生地を外側に用い、内側には伝統的なカンガという色鮮やかなプリントの布を貼っています。このプロジェクトでは、“NOT CHARITY, JUST WORK”をスローガンにしています。特に女性の地位向上を目指し、将来自立できるような技術を身につけてもらえるよう訓練を行っています。
――もともとイタリアのラグジュアリーブランド、フェンディ一族の出身で、「フェンディッシモ」ラインのクリエーティブディレクターだったと伺いましたが、起業の経緯は?
フェンディを離れた時は、根本的に人生を変えたいと思っていて、ファッションの世界にはもう戻って来ないと思っていました。
もともと幼少期は自然が大好きな父のもと、田舎で自然に触れ合う生活をしていたのです。その後、フェンディ一族の母と共に暮らすようになって、ファッションの世界に入り、バッグやアクセサリーをデザインしていました。けれどもグローバリゼーションの流れの中で、2000年にフェンディがLVMHグループに売却され、ファッションのあまりの時間の流れの速さについていけないと感じるようになりました。一生懸命デザインしても、シーズンが終わればすぐ古くなることに疲れ果ててしまったのです。
それで、ファッションと違う時間が流れる農業に関心を持ちました。季節ごとの時間を受け入れ、昔のように自然の流れの中で生活したいと思ったのです。会社を辞めると、ローマ郊外のオーガニック農場の経営を始めました。農業にかかわる内に、エコロジカルな支援や社会貢献をしていきたいと思い始め、ローマの大学が企画した養蜂コースに私の農場を提供したのです。この時知り合ったカメルーンの女性と親交が深まり、カメルーンへ赴くことになりました。現地では家の中で養蜂をしていて、人々は外で生活をしていました。そんな生活の中でも、女性達がカメルーンの毛糸で編んだ伝統的な帽子をプレゼントしてくれました。そこで彼らの状況を少しでも支援したいと思い、帽子を使った「カメルーンバッグ」を製作したのです。それをドーバー ストリート マーケット ロンドンが販売してくれたのが、ブランドの始まりです。
――なるほど。現在はどう発展しましたか。
ファッションと社会貢献活動を結びつけた新しい形の起業であり、いらなくなったモノに再び新しいカタチを与えるデザイン活動と思っています。今は廃材やデッドストック、生産から外れてしまった最終処分品、品質チェックから落ちてしまった製品などを再利用し、バッグやアクセサリー、家具まで製作しています。高い技術を誇るイタリアの職人が生産するラインと、アフリカの素材を使い、アフリカで生産するラインがあります。この活動によって、世界を変えられるとまでは思っていませんが、少なくとも世界で起こっている様々な問題について語る手段にはなります。
――カルミナ・カンプスとフェンディ時代で、デザインの違いはありますか。
以前はデザインが最初にあり、それに合わせて素材を選んでいましたが、今はあるものを利用するので、素材を見て発想するようになりました。私が好きなのは工場に行って、工場廃棄物から素材探しをすることです。
例えば、自動車ブランド「BMWミニ」とのコラボレーションでは、自動車のクラッシュテストに使われ、廃棄される車の部品を使って、バッグをつくりました。車のハンドルがバッグの持ち手になったり、バックミラーを転用したり。バッグの製作費用はBMW社が持ち、バッグの収益金はすべてアフリカに寄付しました。
――農業を続けつつ、ファッションの世界に復帰したことについて、どのような心境でしょう。
私にとっては、羊を飼いチーズをつくることと、素材を集めてバッグをつくることは、同じように自然なことに感じます。自分のための時間を持ちたいと思って、ファッションを離れたのに、今はまた忙しくなってしまいました(笑)。けれども、好きなことで忙しい今は、とても幸せなのです。