渋谷慶一郎による初音ミクのオペラ「ジ・エンド」、東京で完全版披露。衣装はマーク・ジェイコブスがデザイン

2013.05.16

今月23・24日、東京渋谷のブンカムラ(Bunkamura)オーチャードホールにて音楽家・渋谷慶一郎作曲による初音ミクを用いたオペラ「ジ・エンド(THE END)」の東京公演が行われる。昨年12月に山口情報芸術センター(YCAM)にて初演され、話題となった。

同作品は楽曲を演奏する歌手やオーケストラは一切登場せず、映像と音響、初音ミクの歌声で進行する。映像は1万ルーメン以上のプロジェクターを使用して、巨大スクリーンに投影。音響は約50台を超すスピーカーにより構成される5.1chサラウンドが1・2階に設置され、10.2chサラウンドが作り出される。すべてがデジタル制御されたオペラだ。

「完全にコントロールされた凄まじい音響を聴くと生音=アコースティックよりも生と感じることが出来る。現代人にとってクラシック音楽の“生音”は音量が小さい。人の意識を飛ばすためには音質ももちろんだけど、“音の量”も重要。オーケストラを超える楽器量による複雑な音の波を人為的に作り出した。全くの異体験になると思う」と渋谷氏は説明する。

同ホールは年末にジルベスター(大晦日)コンサートが開かれるクラシック音楽のメッカ。一見アバンギャルド過ぎる作品の上演に思えるが、徹底して古典的な様式を踏襲しているという。

「メロディーもコードもあるし、悲劇的なストーリーなどクラシックオペラの要素すべてがある。レチタティーボ(話すように歌う部分)とアリア(詠唱)を律儀に設定した。歌と台詞がはっきりわかる方が面白いし、古典的なフレームは利用した方が安心して内容に没入できる。アリアでは16世紀のヨーロッパ音楽にKポップやエレクトロを交配して、現代の最先端の通俗音楽を追求した。古典的オペラも十二分に通俗的だったわけだし。プッチーニやヴェルディのオペラは終幕後は観客達が口ずさんで帰るほど。あと、ミクは唯一出来ないことがあって、笑いながら歌えない。これはあらかじめ悲しみを孕んでいるということでもある。必然的にオペラの定番である“悲劇”になるから相性がいいなと思った。テクノロジー故の儚さも感じる」

レチタティーボとアリアの幕間では初音ミクが着替える。この衣装はルイ・ヴィトンのアーティスティックディレクター、マーク・ジェイコブスと彼のスタジオがデザインしたもの。このコラボを発案したのも渋谷氏だ。

「ヴィトンは、村上隆さんや草間彌生さんとの協働作品など、アートファッションをお互いに引き寄せ、相互浸透させているブランド。そして、マークは現代アメリカの文化的中心。当時のアンディ・ウォーホルみたいに彼が良いといったモノにみんな注目する。実際に彼がミクのスタイル画を描いたんだけど、ダミエ(市松模様)の服が凄くミクに似合っている。シンクロニシティを感じた」

他にも舞台に登場する渋谷氏のヘアメイクは加茂克也が担当するなど、ファッション界のトップクラスがかかわる。東京では初演より衣装のバリエーションを増やしたという。その他序曲とコーダが追加され、ストーリー展開も若干変更された。

「山口でやり残したことがあって、東京ではそれを解消している。今回は完全版。11月にはパリ・シャトレ座での公演が決定しているが、今回のバージョンを上演する予定だ」

音楽のみならず社会学、サブカルチャー、アートなど様々な分野に波及している初音ミク。最後に彼女への見解を聞くと、「僕にとって初音ミクは新しい楽器。モーツァルトが生きていたら、きっと使ってる」


イベント情報】
「THE END」
場所:Bunkamuraオーチャードホール
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1
日程:5月23日19 :00開演、24日15:00/19:00開演※全3回公演
料金:プラチナ席1万円、S席7,500円、A席5,000円、B席3,000円(Bunkamura、CNプレイガイド、チケットぴあ、ローソンチケット、イープラスにて取り扱い)
編集部
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