GWの恒例行事ラ・フォ・ルジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日)に行ってきた。2005年から毎年有楽町国際フォーラムで開催されているクラシック音楽の祭典だ。今年は「パリ、至福の時」と題し、ドビュッシー、ラヴェル、サンサーンスなどといった仏作曲家を中心にプログラムが組まれている。
2演目チケットを取ったのだが、お目当てはラヴェルの「ピアノ協奏曲(ピアコン)」と「夜のガスパール」。これが生で聴きたくてたまらなかった。
ピアコンはサーカスのように軽快な曲。ラヴェルのルーツでもあるスペイン・バスク地方の旋律やジャズのイディオム、モーツァルトのような古典的性格を持つ。ムチの一振りから始まり、銅鑼が使われたり、3楽章ではゴジラの劇伴の元ネタとなる旋律が表れたりととにかく楽しい。国際フォーラムはクラシック用ホールではないため音響が悪いのがちと残念だが、ソリストを務めたベルトラン・シャマユは、仏出身だけあり軽く柔らかい演奏を披露してくれた。
ガスパールはロシア出身のボリス・ベレゾフスキーの演奏。“夜”らしく20時半スタート。この曲は一般的なピアノ曲でベスト3に入るであろう技巧を要する難曲。ベルトランの同名詩集から想を得た「水の精(オンディーヌ)」「絞首台」「スカルボ」の三つからなる音楽物語だ。ゴシックテイストあふれる内容で古典的かつロマン的性格を持つ。20世紀ピアノ音楽の最高傑作だろう。
ベレゾフスキーは過去にこの曲を録音しているのだが、おそらく全ピアニスト中最速の演奏。ライブでも期待通りの速度を披露してくれた。シャマユとは対極的に骨太のタッチだ。
オンディーヌはその名の通り、右手が重音の最小音で水の漣を描く。アフタータッチとペダルで溶け合う伴奏の中に左手で主題を乗せていく。音のバランスにとても気を使うが、ベレゾフスキーは気楽に奏でていった。デュナーミクが利いている。
オンディーヌとは対照的にアクロバティックな奏法を必要とする最終曲スカルボはペダル控えめでドライに演奏。とにかく速い。サクサク進んでいく。クライマックスでは最大音量でスカルボの絶叫を鳴らし、そこへと至るアゴーギグもマッチョなもの。スカルボ=小悪魔の大きないたずらを見事な指さばきで弾きこなした。
別に速ければいいってもんじゃないが、快速だと面白い。インテンポで弾かれるべきラヴェルだが、ガスパールはロマン的に奏者の手に委ねられる部分もかなりある。。
因みに私のお気に入り録音は、
組曲としては、
1.ポゴレリチ(DG)
とにかく上手い。遅めの演奏だが技巧は有り余るほど。曲のゴシックホラーかつグロテスクな性格を見事に描ききっている。数年前にライブを聴いたが、大分変わってしまった。
2.フランソワ(EMI67年盤)
晩年でメタメタな感じもあるが、天性のエスプリが利いている。爛熟した朽ち落ちる直前の薔薇のような雰囲気。ショパンとラヴェル演奏においては独特の美意識が堪らない。
オンディーヌに限っては、ミケランジェリとオグドンだろうか。ミケランジェリはもう完璧。完璧主義者による完璧な凄演が聴ける。怖いくらい明晰。非の打ちどころがない。盤はどれでもよい。演奏の凄さは変わらない。すべては録音の質にかかっている。オグドンはモスクワでのライブ演奏。YouTubeで視聴できるので見てほしい。精神病から復帰した後の名演が聴ける。