安心して失敗出来ることで「創造力」が養われる--会田大也2/2【INTERVIEW】

2014.12.03

――今後“メディア”を取り巻く環境には、どのような変化が起きると考えていますか。

ツイッターやフェイスブック、またはスマートフォンが登場する以前は、それらがこれだけ社会一般に普及するということは、皆さん一様に想像できなかったことと思いますし、それは僕も同じです。けれど日常的にプロフェッショナルとしてかかわっている専門家というのが必ずいて、そういう人たちは普通の人達よりもいくらか早く先が見えているんですね。なので、ココイクでは分野の専門家を講師に招きます。教育の専門家というよりは、それぞれのジャンルの専門家から指導を受ける形です。

――メディアは場所に捕らわれることなく、世界と繋がれるという魅力もありますね。

そうなんです。YCAMでも離島へワークショップをしに行ったりしていましたが、プログラミングとかスライドショーとかを作る環境としては東京の子と全く変わらない環境がありますから。一方で、その題材は漁師さんや里山の自然をテーマとしていたりして、当然大都会とは異なります。同じアニメーション作りのプラットフォームを用いて、それらの作品交換を通じて都会と地方が交流できると面白いと思っています。

――ココイクでは「創造力」がコンセプトになっています。メディアを通じて身に付く創造力とは。

ココイクでは創造力に関して明確に定義しています。いわゆるアートとかデザインを小綺麗にセンスよくまとめる能力のことではなく、全然違う確度で定義します。たとえば、思いも寄らないトラブルが起きた時には、未曾有の状況の中で思考回路が停止してしまい何も出来ない人と、現状をよく観察してこの次に何をすべきなのが考えられ一歩踏み出していける人と、2パターンの人達が出てきます。次の一歩を踏み出していける人の方が打開力がありますし、そういう能力を「創造性」と定義したい。社会の変化が早く先が見えない状況があるからこそ、どんな状況に対しても一歩踏み出せる頭の柔軟さや勇気、深く考えられる思考力というのが求められます。そのためには、メディアの使い方をHow toとして学ぶのではなく、様々なジャンルの専門家の多様な「創造性」に直接触れることが重要だと考えています。

――一方、思考回路が停止してしまうのはなぜなのでしょう。

やっぱり立ち止まってしまうのは、失敗を酷く叱責された経験がトラウマになっていることが多いと思うんです。失敗を恐れずトライアルしてみる、表現してみるということを、安心して出来る体験が繰り返されていくと、気軽に挑戦できるようになりますよね。特に子供のうちは安心して失敗できる環境が必要だと思います。ココイクはそういう場でありたいと思っています。

――安心して失敗できる環境が必要なのですね。

そもそも“安心して失敗できる環境”を教育と言ってもいいんじゃないかと思うんです。例えば、インターネット上に書き込みをする時も、実名が出てしまう取り返しのつかない形でやるのは怖いですよね。ある意味守られた環境の中で試してみて、こういう書き方だと人を傷つけてしまうとか、傷つけられたときにはこう考えたほうがいいとか、安全な環境の中でやってみてコツを掴んでいくのが教育なのかなと。「安心して失敗できる場」というのを用意しておくのが大事なことです。

――来春からのココイクには親のための授業も用意されていますね。こと“メディア”については変化のスピードも速く“あいうえお”を教えるのとは全く次元が異なりますね。

その通りですね。インターネット関連のプロフェッショナルでも、自分の子どもがどうやってネットと触れるべきか、まだまだ議論は尽きません。それでも「とにかく危ない」と素人が叫ぶよりは、建設的な議論が重ねられるのではないでしょうか。「触れさせる/触れさせない」という二者択一ではなく、子どもの成長段階にあわせた付き合い方を、家族も一緒に探っていく必要があります。事実、就職活動になって初めてパソコンでネットに接続する、という大学生も出てきはじめています。その時に急にネットの中に放り出されて事故に巻き込まれても、それまで素朴に「禁止」していた人がその責任を取ってくれることはありません。子どもに親が全て教えてあげるという関係よりも、子どもと共に親が学んでいける場になると良いのかも知れませんね。それは結果的に、子どもが歩みながら育つ環境としても有効だと思うわけです。

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畑 麻衣子
  • 15年4月に開校する三越伊勢丹のメディアに特化した学びプロジェクト「ココイク」のロゴ
  • ミュージアムエデュケーターの会田大也さん
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