安定か停滞か。期待に応えることと裏切ること【ロンドンメンズ3日目1/2】

2015.01.19

あるブランドが、同じものを何シーズンも作り続けたら、そのブランドは停滞している。だが、シーズンごとに新しいアイデアも取り入れつつ、ブランドの基的なキャラクターを保っていけるならば、そのブランドは安定している。たとえば、シープスキンのコートやオールインワン、ジップアップニット等のアイテムや、優しい色使いのニットスカーフ、いかついラバーソールのとのコーディネートカジュアル感、アウトドア感を出した今シーズンの「マーガレット・ハウエル(Margaret Howell)」だが、英国的で清潔感のある端正さは、常に変わらない。
マーガレット・ハウエル 15-16AWメンズコレクション 大掛かりなセットでランウエイに人工雪を降らせ、カラフルなパッチワークのニットやアニマル柄のフェイクファーで作ったスーツ、シルバーやゴールドのスパンコールが全面を覆うパーカやドレスで陽気に盛り上げた 「モスキーノMOSCHINO)」もまた、安定組だ。クリエーションは両極端とも言える2ブランドだが、常に、ファンの期待に応えるクリエーションを提供している安定性では、通じるものがある。
モスキーノ 15-16AWメンズコレクション

ショー自体の観客もブランドのファンが大勢を占めたリアム・ギャラガーのブランド、「プリティ・グリーン・ブラック・レーベル(PRETTY GREEN Black Label)」も安定組に入る。スリムフィットのテーラードスーツにはフローラル柄のシャツがコーディネートされ、白や黒のスキニーデニムには、このブランドには欠かせないアイテムであるモッズコートが合わせられる。リアム・ギャラガー自身が大きくスタイルを変えない限り、このブランドはこれでいいのだ。

だが、ジャケットのフロントにボタンのように並べた大ぶりなジュエリーと長いフリンジが長辺いっぱいに付けられたニットのマフラーをのぞけば、特に目新しいものがなかった「J.W.アンダーソン(J.W. Anderson)」はどうだろうか。後ろ姿がセーラーカラーに近い高く大きな衿のジャケットも、コルセットか腹巻きのようなリブニットが胸から下を覆うトップも、なんともJ.W.アンダーソンではあるが、見た覚えがある。見る側の予測を上回り裏切る、驚きのアイデアを出し続けてきたブランドだけに見る側の要求が高くなりすぎている部分もあるだろう。クリエーションがひと皮剥けるためには時間が掛かり、その過渡期が停滞と見える場合もあるだろう。いずれにしろ、ここで止まってしまうブランドではあってほしくない。
J.W.アンダーソン 15-16AWメンズコレクション

テーラードアイテムに熱転写でたすきのようにプリント生地を乗せてみたり、クリスタルで作った星を乗せてみたりと、シルエットよりも表面の装飾で変化を出そうとした
アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」。ショー直後の素直な感想は「マックイーンって、こういうブランドだったっけ?」に尽きる。シャープなカッティングのジャケットやコートは、男性のシェープをより美しく見せる素晴らしい仕上がりで、その点では、サヴィル・ロウのテーラーに引けを取らない。テーラリングをフィーチャーしつつなんだか雑な作りが目立つ若手ブランドには、爪の垢でも煎じて飲ませたいほどだ。だが、アレキサンダー・マックイーンというブランドに期待されているのは、そういうことの先にある何かなのではなかったか?確立された概念をひっくり返しつつ、美しく新しいものを作ってきたからこその、アレキサンダー・マックイーンではなかったか? そう考えると、なんだか残念な気持ちになる。しかし一方で、単なる年寄りのノスタルジアでしかないのかもしれないとも思えてくる。アレキサンダー・マックイーン自身はすでにこの世にいないのだから、彼自身が手掛けていた時代とは違う、サラ・バートンのマックイーンとして、シーズンごとに出てきたものだけを見て評価するべきなのかもしれない。
パースニップス・プレス
  • モスキーノ15-16AWメンズコレクション
  • マーガレット・ハウエル15-16AWメンズコレクション
  • プリティ・グリーン・ブラック・レーベル15-16AWコレクション
  • プリティ・グリーン・ブラック・レーベル15-16AWコレクション
  • J.W.アンダーソン15-16AWメンズコレクション
  • アレキサンダー・マックイーン15-16AWメンズコレクション
  • 安定か停滞か。期待に応えることと裏切ること【ロンドンメンズ3日目1/2】
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