先シーズン、相撲をインスピレーションとしたコレクションで驚かせてくれた 「アストリッド・アンデルセン(Astrid Andersen)」は今シーズンも、日本がインスピレーションの大きな部分を占めていた。今回キーとなっているのは武士道の精神を説いた『葉隠』。「武士道とは死ぬことと見つけたり」という余りにも有名な一節は、記憶にある人も多いだろう。ただし、アンデルセンによる『葉隠』の解釈はジム・ジャームッシュの映画『ゴースト・ドッグ』(1999年)を経由したもので、アメリカのアーバンカルチャーに通じるメランコリーが強調されている。武士道と言いながら、全ルックにベレーかファーをゴージャスに使ったパイロットキャップが合わせられているのは、恐らくそのためだろう。トップが長めでウエストを絞らないシルエットも、黒、グレー、差し色としてピンクと赤という色使いも、特に日本や武士道を思い出させるものではない。相撲から化粧まわしを作った先シーズンの直球が、服の背後に込められた思いを読み取らせようとするくせ球に変化したということなのか、アンデルセンがイメージする「武士」が日本人一般が持つ武士のイメージとはかけ離れているということなのか。武士道は脇に置いてコレクションを見てみれば、スポーツウエアをベースにしつつ素材やシルエットを変化させるというアンデルセン流が、少しずつ進化しているのが見て取れる。背番号やロゴは、メタリックな素材でギラギラと7色に輝く。これは油のギラギラを写したもので、今シーズン初めて登場のニットにも、熱転写したギラギラの背番号が乗っている。ファー使いはいっそうカジュアルになり、よく見ないとものすごいファーを使っているのに気が付かないほどだ。先シーズンまでは必ずと言っていいほど見た、上半身を露出したモデルも、今シーズンは登場しない。自信があるからこそ誇示に走らない、大人のコレクションになってきたようだ。
アストリッド・アンデルセン 15-16AWコレクション
同じく日本、それも忍者をインスピレーションとした「マハリシ(Maharishi)」 は、マスク付きフードがおどろおどろしい全身黒のルックや、富士山、五重塔といった分かり易く日本な意匠、忍者の刀のように背中に斜めにしょった長い傘で、ある種べたな「日本風」を表現してみせた。言ってみれば、外国人観光客向け土産物店に通じる、大げさにデフォルメされたステレオタイプな「日本」である。日本人が見てしまえば、一つひとつ間違いを指摘し、「これじゃない!」と言うことも容易い。だがここは、誤解や思い込みから生まれるものを楽しんでしまうのが正解ではないだろうか。忍者を出発点に、日本人なら思いつかないだろうものを作り出したことは間違いないのだし。
マハリシ 15-16AWコレクション
新人・若手の合同展示会イベント、ファッション・イースト・メンズウエア・プレゼンテーションでも、2シーズン目となる「エドワード・クラッチリー(Edward Crutchley)」が、スカジャンに袴、下駄(ただし足袋ではなくソックスで)という、日本人ならやらない組み合わせの日本風コレクションを見せた。
日本は日本でも、日本製の素材をキーアイテムに用いたのは「クリストファー・レイバーン(Christopher Raeburn)」。柔らかい光沢を放つウールデニムで、フリース裏のジャケットとゆったり目のコンバットパンツを作った。救命ボートでの漂流とサバイバルがテーマとなった今シーズン、ウールデニムのパンツは、貨物のパッケージをイメージした文字がプリントされたジャケットや、海の脅威のひとつとしてのサメ柄のニット、救命ボートのような空気で膨らませたビニール製のベストやジャケットとコーディネートされた。サメは立体になり、ぬいぐるみリュックとしても登場した。
クリストファー・レイバーン 15-16AWメンズコレクション