様々な場面で活躍する女性達の“輝き”の理由に迫る連載「輝く女性の秘密」。第14回後編は、「マイ・リトル・パリ(MY LITTLE PARIS)」のイラストレーターのKanakoさんにお話を伺いました。
――ファニー・ぺショダさん(MY LITTLE PARIS創業者)の部屋にKanakoさんとの出会いのシーンのイラストが飾ってありました。その時のことを教えてください。
誕生日にファニーに贈ったイラストですね。私は2005年にパリに来て、日本からの仕事を受けながら生活していたのですが、あるアートイベントに誘われて出展した時に、たまたま社長の妹のアマンディーヌが友達に連れられてやってきたんです。その1年後に彼女から突然電話があって、「姉と一緒に絵を見せてもらいたいから夜カフェに来て欲しい」と言われました。その時何のことか全然分からなかったのですが、とりあえず行ってみようと思ったんです。
そこで2人から新しく始めるビジネスの話を聞きました。最初、「お金は出せないけど、上手くいったらお金を払える」と言われたんです。友人達からは「騙されるかもしれないからやめた方がいい」と言われたりしましたが、丁度そろそろ帰国しようと考えていた時だったので、パリでの最後に思い出で作りのような気分で参加しました。
後から聞いたところ、ファニーからイラストレーターを探すように頼まれていたアマンディーヌが、たまたま持っていた私のポストカードを見て思い出してくれたらしいのです。今考えると、私の人生を完全に変えてしまった仕事がこんな風に始まったなんて、おとぎ話みたいに感じます。
――このビジネスが成功すると思っていましたか?
今でもファニーに「こんな風になると思ってた?」と聞くことがあるんですが、ファニーもここまでは予想していなかったみたい。私はとにかく夢中でここまで来ました。実は、最初の1年間は無休で働いたのですが、その時が一番楽しかったように思います。“お金をもらっていないのにこんなに楽しいなんて、自分によほど楽しいに違いない”と脳が納得してしまっていたのかも。フランス語もほとんど分からない状態だったんですよ。
――最初は3人だけでしたね。
3人だけだった当時はファニーのアパートで週1回、ピザを食べながらミーティングしていました。今が三つ目のオフィスで、ここに来て初めて思い描いていた環境が実現しました。こんな良い環境、フランスでもめったにないですよ。壁にも絵を描かせてもらえて、イラストレーターとしても嬉しいです。
――創業当時と今で変わったことはありますか?
それが、ビジネスが拡大しても、ウェブサイトの雰囲気など表の面だけでなく、社内の人間関係も変わらず、アットホームで温かい当時のムードのままです。ファニーの人柄と能力のお陰だと思います。
今まで仕事が忙しくて辛くなったり、他から素敵な仕事のお誘いをいただいたり、いろいろありましたが、やっぱりやってきてよかったと思う。他だったらここまで長続きしなかったと思います。本気で嫌になったことは一度もありません。
ファニーやチームメイトに、クリエーターとして守られ、プロデュースしてもらって来たので。ここまでの信頼関係を築けたのは、すごいなと自分でも思います。ファニーと私は全然違うタイプだけど、本気で大事にしてくれていると感じるんです。
例えば、一度イラストレーターを何人か雇ってチームにしたらどうかという話が出たのですが、私はどうしても嫌で反対したんです。その後急に忙しくなって辛くて悩んでいたその時、「イラストレーターはKanako1人体制でやって行くということは皆で決めたことだから、1人ですべてを負う必要はない。辛い時はちゃんと伝えて」と言われて救われたし、とても嬉しかったのを覚えています。他にも、忙しくて家の掃除も出来ない時に掃除の方を寄越してくれたこともありました。
――たくさんの人が海外に行きますが、パリに居続けられた理由は?
1個しかないです。運です!
――運を引き寄せる何かがあったのでは?
私、諦めが悪いんです。“向いてない”“駄目だなと”とすぱっとあきらめて帰る人がいると思うのですが、私は逆。
それに、野生の勘のようなものがあって、例えば、ファニーと出会った時も、どれだけ他の人に反対されても、“彼女には人がついてくる”“信頼出来る人だ”とどこかで思っていたんです。カフェで出会った彼女は、ビジネスウーマンらしくかっこいい服を着ていて、なんと履歴書を持ってきていました。「自分はこういう人間で、こんなことがやりたい」と語る彼女に、気概と誠意を感じました。その後もいろんな人に会いましたが、彼女ほど誠実な人はいなかったように思います。
――日本とパリとの違いは?
パリでは、会社を離れても、イラストレーターという立場が、社会の中で他の職業と同じ様にリスペクトされているのを実感します。それに、街にクリエーションが溢れていて、生活の中にもインスピレーションがいっぱい。友達を待っている時間や、ふとしたシーンが、自然に頭にストックされていって、それが私のイラストへとつながっていきます。
――これからもパリに住み続けますか?
はい。ここから離れることは考えられません。夢見た以上の経験をさせてもらっていますから。それに、パリに9年いますが、まだまだフランス人について理解できないことがたくさんあるんです。それが分からないうちは、次への結論が出せませんね。
【Kanako プロフィール】
多摩美術大学で学んだ後、イラストレーターとして活躍。2005年に渡仏。2008年にファニー&アマンディーヌ・ペショダ姉妹と知り合い、意気投合して3人でMY LITTLE PARISをスタート。その後イラストのすべてを手掛ける。パリで人気のイラストレーターの一人として知られ、2013年8月には、パリ市との共同企画「レ・パリジャン(LES PARISIENS)」で、パリ市内の約1,000ヶ所に彼女のイラストが展示された。Youtubeでは、彼女の生い立ちを自身のイラストと共に綴った動画が公開されている。