9月16日、銀座三越の3階婦人服・婦人肌着フロアがリモデルオープンする。前回の増床リモデルから5年が経過し、大きく変化したと思われるのが顧客層だ。今回のリモデルのポイントを担当マネージャーに聞いた。
3階「TOKYOモード1」を統括し、「ニューヨーク ランウェイ」を担当する、セールスマネージャーの右近一成氏によれば、当時、歌舞伎座を皮切りに主要な建物の建て替えが進み、「銀座のお客様が変わる」という印象はあったものの、特にこの2、3年は、周知のように劇的に海外からの顧客が多くなった。加えて、湾岸地域の開発によって周辺3区の人口が増え、日本人の顧客もいわゆる“湾岸ファミリー”を軸とする新富裕層、中でも「消費経験が豊富で高感度な30代~40代のお客様の割合が増えた」と言う。
そうした顧客層には、「このブランドでなければ嫌」といったブランド信仰は見られない。但し、目は肥えている。そこで「国内外のブランドを同列に見て、等身大のファッションを楽しみ、自分なりの審美眼を持ったお客様を対象に、東京ブランドと世界発信ブランド、それぞれを東京、銀座というフィルターを通した時、どのような編集ができるのだろうと考えて生まれたのが、今回の結果です」と右近氏は語る。
変化した顧客層を背景に、3階では「最旬のTOKYOモード」と銘打ち、ファセッタズム(FACETASM)、タロウ ホリウチ(TARO HORIUCHI)といった、東京ブランドでまとめた「ル プレイス」、国内外の最旬ブランドを東京という視点で切り取る「ニューヨーク ランウェイ」という2つの編集型ショップに力を注ぐ。
両ショップともに大きく変わったのは、扱いブランドのテイストの幅が大きく広がったことだ。右近氏はこれについて、テイストや用途にこだわらないミックスコーディネイトというファッショントレンド、先述した顧客層の変化とともに、顧客の志向そのものの変化を指摘する。
「これまでは、コンサバならコンサバ、アバンギャルドならアバンギャルドと、年齢を重ね、ご自身の志向が固まるとそのまま、というお客様が多かったが、最近のお客様はいくつになってもトレンドを追い続けようとする」という。
そこで、これまでカジュアルでスタイリッシュな品揃えだった「ニューヨーク ランウェイ」には、ポップでフェミニンなブランドが登場し、他方、「ル プレイス」には、ミハラヤスヒロ(MIHARAYASUHIRO)、タロウホリウチ、ファセッタズムなど、これまでなら銀座三越には出店しなかったようなブランドがお目見えして、よりモード感が強くなった。顧客にとっては一層、「自分で選び、コーディネイトする」楽しさのある売り場構成と言えるだろう。
特筆すべきは、スニーカーを常時150足ほど展開すること。スポーツテイストのトレンドが続き、レーシーなスカートにスニーカーというコーディネイトは当たり前になっている中、これまで銀座三越としては、ナイキ(NIKE)やニューバランス(New Balance)などスポーツブランドのスニーカーを扱ってこなかったが、今回のリモデルでは、スニーカーの品揃えは圧倒的に充実することとなり、トータルコーディネイトの視点からも大きく進化している。
さらに新しい試みとして、「ル プレイス」担当マネージャーの大原悠子氏は「ファッションが持つ、ワクワクドキドキという感覚が詰まったブランドを紹介していくのはもちろんだが、ただ最旬の服、つまり“モノ”が集まっているというだけではなく、コトという側面からアピールしていく」と言う。
その一環として「ジャパニーズコミュニケーションステージ」なるコーナーを新設し、デザイナーの思いを伝えるイベントを企画していく。9月16日からは、コーヘン(Coohem)やユウミアリア(Yuumi ARIA)といったブランドのデザイナーの手による写真を展示する。顧客には「服の売り場に写真が並んでいる」という意外性を与えたり、あるいは服に興味を持った顧客に対して、そのデザイナーの人間性にも触れる体験を提供したりと、モノを買うだけに留まらない、さまざまな角度からのコミュニケーションを生む場と位置づけている。
また、リモデルのキーワードとしてもう一つ挙げているのが「銀座のおもてなし」。最近の女性の顧客には、男性に見られるような作りや素材に対するこだわりが感じられるようになってきたことから、販売員には、モノ作りへのこだわり、モノの価値をお客様と共有し、会話を弾ませていくことを実践していくという。また外国人の顧客に向けては、店舗全体で中国語など外国語の通訳スタッフを増やすという。
同フロアの「ニューヨーク ランウェイ」は、同店の中でもいち早く編集色を打ち出し、特に感度の高い女性たちに支持されていたが、右近氏は「今回のリモデルは、理想としている形がほぼ100%実現したと思う」と自負する。顧客としては、その自信に大いに期待したい。