ナイロン・ジャパンは、あと2・3年もするとデジタルネイティブ世代がメイン読者層になってくる。そう考えると雑誌だけではなくデジタル、SNSを活用した新しいメディアが必要になってくるのは必至だ。
『ナイロン・ジャパン』を始めた頃はライセンスの力が必要だったが、方針を変えた頃にはコネクションもでき支援してもらえるようになりブランディングがほぼ完成、それを発展させていく段階にきたと戸川氏は判断した。その時点でデジタルとの向き合い方が鍵を握っているのはわかっていた。
2011年にウェブ版のNYLON.JPをスタートさせたが、当初はそこにどんな価値を見出せばいいのかわからなかった。他誌も「紙の時代じゃない」といいながらも収益性に欠け、デジタルの活用法に明確な答えが見出せず試行錯誤していた。
これまで紙媒体は、いい記事を作れば読者に支持され部数も広告も伸びていた。ところが同じやり方がデジタルでは通用しないのだ。『ナイロン・ジャパン』の方針変更でイメージ以上にこだわった、日本人をモデルにすること、リアリティーのある服を取り上げること等、実用的な作り方にヒントが隠れていることに戸川氏は気がついたという。
デジタルの世界ではコミュニケーションの取り方が重要で、ファン=読者との交流を図るためにデジタル上のコミュニティーを作り始めた。ただ、このコミュニティーのベースは『ナイロン・ジャパン』のコアな読者で、雑誌とは関係ないところから新たに入ってくるものもいたのだ。創刊当時から『ナイロン・ジャパン』の周知と経営を軌道に乗せるために、クラブなどでイベントを開催していた。この手法もロンドンのデイズド編集部で学んだことで、今となってはコミュニティー作りに一役買うようになった。
「基本的には雑誌とデジタルの直接的な連動はさせません。それは役割が違うからです。雑誌の企画の告知などではデジタルを使うことはありますが、今となってはデジタルの方が圧倒的にファンが多いからです。コミュニティー作りにはSNSが有用で、中でもフェイスブックとインスタグラムを多く使っています」
SNSはツイッターからピンタレスト、グーグル+と一通りアカウントを開設している。『ナイロン・ジャパン』2015年1月号はインスタグラムのストリートスナップ特集を敢行した。従来のストリートスナップは、編集部が出かけて行ってスナップするのだが、この企画はファンが投稿した写真を編集する方式をとったのだ。予想は的中、全国から約2,000の投稿があり、掲載されたファンもハッピー、しかもファッション誌で表紙にインスタグラムのロゴが掲載されたのは世界でも初めてと、本国インスタグラム社からも感謝されたという。従来は、雑誌の企画が先行して、その材料をデジタルに流用するパターンだったが、逆の発想を用いることで『ナイロン・ジャパン』本誌の売り上げも倍増した。
「ライセンスマガジンに助けられてきましたが、起業した時からいつかはオリジナルのメディアを作りたいと思っていました」。2015年中には今までにない新しい形態のメディアを立ち上げる予定と戸川氏は言う。
4/11--伝説のラグジュアリー誌『ロフィシェル』に続く。