2015年は3・5・9・11月の計4冊を発行し、将来的にはもっと増やしていく予定だ。フリーの雑誌なので、収入源は広告のみ。広告主がどの視点で出稿するかが問題となる。
ブランドイメージを損なうことなくむしろ高め、掲載商品の反響が多い雑誌が出稿のポイントだ。以前は、発行部数や反響を度外視し、広告主のタニマチ的発想から出稿が決まった例もあったが、現在はシビアに費用対効果が第1条件。コンテンツの充実に尽力する編集長の役割に加え、広告主との信頼関係が大きくものをいう時代だ。
「入社当時は『non-no』に配属になり、読者と文通したりするほど読者コンシャスで、パリコレの話などピンときませんでした。ましてパリコレなどで着れもしない服を見て何の役に立つ?と思っていました」。ところが『SPUR』に異動になりコレクションに行くようになると、ファッションの一歩先が読めることと、ファッションはそんなに難しいものではなく、コレクションのエッセンスを読者に伝えればいいのだと気付き、モード誌の醍醐味を知ったという。
『Tジャパン』の方針を訊ねると、「クオリティー」と「インテリジェンス」をキーワードにした「大人が読みたい雑誌」との答え。それは、例えばバッグが100個掲載されるより、選りすぐりの3個しか載ってないが説得力がある、行動のきっかけになる内容の濃い記事というようなことだと内田編集長はいう。
日本のモード誌は、ある時期からモードのリーダーでありながら、読者が知りたいことを大量にしかも細やかな解説で紹介するといった読者コンシャスな作りにシフトした。それが日本のファッション雑誌文化であり、成功するスタイルとして海外でも認知されるようになった。
日本のモード誌が向かう方向と一線を画す『Tジャパン』の真意を聞くと、
「書店売りなら、もしかしたら違う方法論を選んだかもしれませんが、Tは『お届けする本』で、手にとって読んでいただきたい。ならば読み応えのある記事が当たり前にしていかなければいけないと考えました」と話す。ファッション自体、量の時代から質の時代へ流れが変わりつつある気配を感じる。
「NYT社の人たちと接すると、ファッションを映画やアート等と同じように一つの文化として捉えているから政治部も経済部の記者もコレクションに興味を持っている。文化の一つとしてファッションを伝えたいと考えると、自ずとアプローチも違ってくるのです。取材記事にしても、ノンフィクション作家が時間をかけて取材し、新しい視点のインタビュー記事にしたり、作家性のある写真家に撮影を依頼するなど、一捻りした記事が、雑誌を生き生きとさせる原動力になります」と内田編集長。
編集記事は半分がリフト(本国版)で半分が日本編集。紹介するファッションは女性ものが中心だが、質の高い記事は男女を問わず読んでもらえると確信している。
本国の『Tマガジン』編集者から、日本版の記事をリフトできる日が待ち遠しいと言われたと、内田編集長ははにかみながら話しつつ、瞳の奥がキラリと光った。
7/11--25周年を迎える『フィガロ ジャポン』に続く。