日本の人間国宝(重要無形文化財)を元に1994年に策定された「メートルダール」(Maitre d’ Art)の海外初の展覧会「フランス人間国宝展」が9月12日から11月26日まで東京国立博物館表慶館で開催される。
現在124名が認定されているフランス伝統工芸の最高技能者に授与される称号であるメートルダールを認定された作家を中心に15名の匠が選ばれ、約200点の作品が一挙公開される。その内、約75%が今回の展覧会のために新たに制作されるもので、東京でのお披露目を終えた後、パリの伝統工芸を世界に広めることを目的に活動を続ける主催団体のHEART & craftsが発起人となるWONDER LABプロジェクトとしてアジア各国を巡回する予定。
「今回の展覧会は、古くは王制時代からあるフランスの伝統工芸職人たちの過去、現在、未来への旅。今回作品を展示する15名の作家たちは単に伝統を守っているとだけでは無く、常にイノベーションを図り、次の世代へ継承していくことに重点に置いていることが共通している」とティエリー・ダナ駐日フランス大使は話す。同称号を与えられた作家には、最低3年間、弟子を取って技術と共に道具も伝承することが義務づけられているという。
また、3年前にフランス政府がこれらのアーティスト、作家たちのために新たにリニューアルオープンした京都のヴィラ九条山に滞在し制作活動を行った作家たちも今回展覧会に参加。京都の伝統工芸職人と交流した作品も出品される予定。
ジャン=ポール・ゴルチエのドレスで注目を集め、シャネル、ニナ・リッチ、ジバンシィなどのオートクチュールなどを手掛ける羽細工作家のネリー・ソニエ(Nelly SAUNIER)は、2015年にヴィラ九条山に滞在。20世紀中頃になくなりつつあった18世紀に歴史が遡れる壁紙を復元した壁紙作家・フランソワ=グザヴィエ・リシャール(Francois-Xavier RICHARD)は、2017年4月まで同地に滞在。今回は会場展示のデザインを担当するリナ・ゴットメと共同で壁紙を制作する。
それ以外にも、40年以上にわたり曜変天目の研究に人生を捧げる仏で最も有名な陶芸作家のひとりであるジャン・ジレル(Jean GIREL)が、今回の展覧会のために60点の新作茶碗を展示。
また、シャネル、ディオール、サンローランなどオートクチュールメゾンをはじめ、アルマーニなど高級ブランドのインビテーションカード、コフレなどを手掛けているエンボス加工(ゴフラージュ)作家・ロラン・ノグ(Laurent NOGUES)は、日本の製紙メーカーの協力で特殊加工紙「パチカ」を用いた盲目の人たちが触れて読むことの出来る本を展示するなど、日本の新しい技術や伝統工芸との共同制作作品も展示される。
以下、今回参加する主なデザイナーを紹介する。
イヴ・サンローラン、ジャック・シラク、フランソワ・ミッテラン、マリア・カラスなどが愛用していたことでも知られる鼈甲作家・眼鏡デザイナーのクリスティアン・ボネ(Christian BONNET)。
合気道を学び、ロスチャイルド家やブルネイ国王を始め日本にも多くの顧客を持ち、エルメスで特注品を担当してきた革細工作家セルジュ・アモルソ(Serge AMORUSO)。特にエキゾチックレザーを使った技法では名高く、今回は同じ型のバッグを7種類の作品で制作する。
アンティーク作品の修復を通じてアールデコ時代によく使われていた麦わら象眼細工を復活させたリゾン・ドゥ・コーヌ(Lison DE CAUNES)。
コスチュームデザイナーとして衣装、コルセット、傘などをジバンシーやディオールなどに提供。日傘をサンローランから特注されたことをを転機に傘作家に転身。すべての工程を一人で手掛けるオーダーメイド傘作家のミシェル・ウルトー(Michel HEURTAULT)。
古い扇の修復と共に、日本の折り紙から着想された広げると立体装飾が現れるポップアップ扇などを制作。ソフィー・コッポラ監督のマリーアントワネットの映画で使われている扇をすべて制作したシルヴァン・ル・グエン(Sylvain LE GUEN)。
ピーター・マリノと共にシャネル、ディオールのブティックの内装を手掛け、2016年にヨージヤマモトのパリのブティックでも作品が展示された作家ピエトロ・セミネリ(Pietro SEMINELLI)。
フランスで4人しかいない紋章彫刻家の第一人者ジェラール・デカン(Gerard DESQUAND)、フランス大統領政府がエリゼ宮に迎える国賓へのギフトを手掛ける金銀細工作家の第一人者ロラン・ダラスプ(Roland DARASPE)。
教会のステンドグラス修復の第一人者であり、ジャン・ヌーヴェル、ポール・アンドリュー、隈研吾、竹山聖などとの共同制作なども行うガラス作家エマニュエル・バロワ(Emmanuel BARROIS)。
エリオグランビュールと呼ばれるユネスコに無形文化遺産として登録されている世界で10人しかいないという銅販に画像を印刷する技術のアーティスト、ファニー・ブーシェ(Fanny BOUCHER)。今回は侍の鎧をテーマにした作品を発表する。
さまざまな金属細工の技法を学んだ後、真鍮細工作家として彫刻と装飾芸術の両方の要素を合わせ持つ作品を制作しているナタナエル・ル・ベール(Nathanael LE BERRE)。
【展覧情報】
「フランス人間国宝展」
会期:9月12日~11月26日
会場:東京国立博物館表慶館
住所:東京都台東区上野公園13-9
時間:9:30~17:00(入場は~16:30まで)
休館日:9月18日、10月9日を除く月曜(9月19日は休館)
料金:一般1,400円(1,200円/1,100円)、大学生1,000円(800円/700円)、高校生600円(400円/300円)*( )内は前売り/20名以上の団体料金
主催:東京国立博物館、NHKプロモーション、朝日新聞社、HEART & crafts
Text: Tatsuya Noda