直木賞作家・西加奈子による絵画展が東京で開催、新作『おまじない』の世界を独特な絵画で表現

開催日:2018.06.10-07.16
2018.05.14
直木賞作家・西加奈子による絵画展、「おまじない」「“i” beyond」展が東京・千代田区のAI KOWADA GALLERYで開催される。展は西が「文学」と同じく情熱を傾ける「絵画」にスポットを当てた、2度目となる企画展示となる。

孫係 “私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ。” ボール紙にクレヨン 550x460mm 2018
©Kanako NISHI courtesy of AI KOWADA GALLERY

これまでも、小説のテーマを絵画でも制作してきた西。その作品は表紙絵や挿絵となり、ストーリーを理解する鍵となる存在でもあった。クレヨンが油絵の具のように厚く塗り重ねられた段ボールのタブローには、西の華奢な体に宿るエネルギーが放出され、力強さに溢れている。西は小説を通し、自己のアイデンティティに悩み、途方に暮れる人々の背中を“あなたはあなたのままでいい”と押し続けてきているが、そのメッセージは絵画にも投影されている。

西が画材としているのは、幼少時から親しんでいるクレヨン、そして通っているスーパーで譲り受けるという段ボール 。正式な美術教育を受けず身近な素材を“画材”とし 、表現するという西独自の制作スタイルは、 ニューヨークなどの街角で、描く素材や場所を選ばず、さまざまな社会問題を訴えてきたストリート・ アーティストの姿にも重ねられる。

今回の作品展は前期「おまじない」と、後期「“i” beyond」に分けて行われる。

前期「おまじない」では、先月刊行された、10年ぶりとなる短編集『おまじない』(筑摩書房、2018)にも表現される心の“ゆらぎ”や“不安定さ”をも見事に表現。夕焼けのように赤く染まる空をバックに煙を吐く煙突や、こちらを見上げる子の何か言いたげに揺らぐ瞳、地を這うカタツムリの滑らかな躰と魅惑的な殻模様。具体的な輪郭を与えられて描かれたそれらは優しい印象を持つ一方、不安定さも感じさせる。本展では、短編集それぞれの物語にあわせて描き下ろされた、具象絵画8点を展示する。

後期「“i” beyond」は、小説 『 i(アイ)』(ポプラ社、2017)の刊行とともに本ギャラリーで開催された「インスタレーション “i”」 を、再構成したもの。ギャラリー全体を力強いストロークで描き上げた波や渦で埋め尽くし、西の表現世界に包まれる空間インスタレーションは、小説の登場人物たちの心の機微を追体験させ、たくさんの観客を圧倒。今回、そのインスタレーションを、「“i” beyond」というテーマで、個別のタブローとして再構成している。西が様々な色彩を自在に操りながら、鮮烈な生命観を描いた抽象絵画、13点が展示予定だ。

小説を読んでなくても、西加奈子の豊穣な表現世界を体験できる貴重な機会となる。  

【イベント情報】
西加奈子「おまじない」「“I” beyond」
会期:前期(「おまじない」)6月10日〜6月24日/後期(「“i” beyond」) 6月30日〜7月16日
会場:AI KOWADA GALLERY
住所:東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda 2F
時間:14:00〜18:00 ※会期中無休
入場無料
編集部
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