デニムブランドG-Star RAWが2022年よりスタートしたアーティスト支援プロジェクト「The Art of RAW」。デニムを素材としてリサイクルするユニークな“実験”を若手アーティストと進めている。G-Star RAWは「Return Your Denim」というプログラムにより、修理が不可能になった衣服をヨーロッパの同ブランドの店舗に持ち込むことで、適切にリサイクルされるか、今回の「The Art of RAW」のような若手アーティスト支援プロジェクトに使用されている。
今年4月に第1弾として発表されたテウン・ズヴェッツ(Teun Zwets:1992 年生まれ)は、2020 年にデザインアカデミー・アイントホーフェンを卒業後、カザーネ賞を受賞し、今回もいち早く創作に取り掛かり作品を発表した。作品はベースとなる金属フレームの椅子と食器棚、ランプが一体となった家具にデニムの屑を幾層にも重ね合わせたオブジェで『Denim Living』と題された。
第2弾はアテナ・グロンティ(Athena Gronti:1993年生まれ)によるギリシア神話をモチーフに、デニム生地をキルティングした『Ariadne’s Thread (アリアドネーの糸)』。クレタ島の王女が愛する英雄を迷宮から脱出させるために糸を使った、というギリシャ神話からインスピレーションされた作品で、デニムの歴史と社会学的側面を研究し、デニムのさまざまな表情を大きなキルトで表現した。
第3弾のレニー・シュテープ(Lenny Stöp:1992年生まれ)の作品は約8kgのユーズド・デニムを使用。工業用パルプ機械によりデニムと水、でんぷんを混ぜ合わせ、乾燥させた素材によりサイドテーブル、スツール、ランプで構成される家具シリーズが発表された。『フラッフ スタックス(Fluff Stacks)』と題された今回の作品は、過去にセラミックやテキスタイル、木材など特定のマテリアルを徹底的に探求し扱ってきた彼が、デニムという素材を独自のレシピでアップサイクリングして生まれたアート作品となった。
科学実験を彷彿させ、“狂気のメソッド”とも評されるその方法論のプロセスをレニー・シュテープにインタビューした。
Q:自身のことを総合芸術家と表現されていますが、普段どのような素材を用いてどのような作業をされているのでしょうか?
レニー・シュテープ(以下レニー):私はセラミックやデニム、木材のようにある意味で異質な素材が好きです。すぐには手に入らないけれど、想像力を働かせる必要があるような素材。どんな質感だろう? どんな味なんだろう? と、それを見る人や使う人の心理を考えるのがとても好きです。そして私の心は様々な素材に魅了されやすく、しばらくの間、何かに集中してその素材や生まれる工程を探求し、そのテクニックが身についた後、再び新たな探求をしに行くことが好きなのです。
Q:今回、「The Art of RAW」プロジェクトのアーティストとしてノミネートされた経緯を教えていただけますか?
レニー:パンデミックが一段落してから私の作品に対する評価は、面白いほどに加速しました。ちょうど1年前、ロッテルダム・オブジェクトのデザインフェアに出展したところ、これがとてもうまくいったんです。雑誌から記事を書きたいという電話が何件かあり、作品も売れました。イタリアでの展示会の機会もオファーがありました。そしてG-Star RAWからも連絡があり、それは大きな驚きでした。
Q:あなたの作品がファッションの分野から評価を得たことを自分ではどう分析していますか?
レニー:G-star RAWとのコラボレーションは、私にとって大きなチャンスとなりました。私の作品がファッション界という異なる分野の一部となったことを、とても光栄に思っています。私は一つのプラットフォームや分野だけで仕事をしているとは思っていません。いつも、さまざまな技術や素材を使った仕事に魅力を感じていたので、この新しいデニムアート作品『Fluff Stacks』を自分のコレクションに加えられることを嬉しく思います。G-star RAWのためにデザインした作品は、ファッション企業としては珍しい家具のコレクションです。今回のコレクションは古いデニム生地を使用していますが、デニムは私にとって全く新しい素材で、デニムから作品を作ることはとても楽しい作業でした。
Q:『フラッフスタックス』のクリエイティブな思考プロセスはどのようなものだったのでしょうか?
レニー:私はいつも素材を見て、その素材がどのような特性を持っていて、どのように振る舞いたいのかを考えます。今回、デニムのパルプを使った新しい素材を作ってみて、それがとても丈夫であることに気づきました。そして、その限界に挑むにはどうしたら良いかと考えた結果、家具を作ることにし、サイドテーブル、スツール、ランプの3種類の原型を作りました。
Q:作品が“サスティナブル”であるという評価に対して、自分ではどう考えていますか?
レニー:私たちは素材を使う前に、その素材がどこから来ているのかをよく考えてから、ものづくりをするべきだと思います。“サスティナブル”という言葉を、私たちは安易に使いがちですが、私たちはその意味を本当に理解しているのでしょうか? 私たちは本当に“サスティナブル”でしょうか? 私はレッテルを貼られるのが好きではありません。私は技術と素材にフォーカスしており、一般的とされている方法ではなく、何か違う方法で素材を活かす方法はないか、常に挑戦し続けています。
Q:あなたの今後の展覧会の予定を教えてください。
レニー:今後の展示計画は、この1年間に制作した新作を発表することです。最初の展示は、10月末に開催されるオランダのデザインウィークとなります。新作に加え、G-Star RAWと制作した作品も展示される予定です。
Q:未来のあなたの計画はどう考えていますか?
レニー:うーん、私のこれから先の計画? デンマークやスウェーデンなど、海外に移住することでしょうか。伝統的なデザインに実験的なひねりを加えて、より現代的なものに仕上げているところにいつも魅力を感じているんです。合間に、アーティスト・レジデンスに参加して、人里離れた非電化地帯へ行き、その環境に身を置いて、そこにある材料だけで仕事をすることに意欲を燃やしているかもしれません。
Q:日本の文化とアートに関して何か興味を持っているものはありますか?
レニー:私は日本の伝統工芸が好きで、特に陶芸家や木工作家の作品からインスピレーションを受けています。日本に行って、伝統工芸や日本の美しい文化を実際に学んでみたいと思っています。