2017年、世界最大級の宝飾・時計見本市であるスイスの「バーゼル・ワールド」で、あるネックレスが人々の話題を呼んだ。それは“Grand Phoenix(偉大なる不死鳥)”と名付けられたネックレス。非常に希少とされるビルマ(ミャンマー)産、かつ非加熱のルビーが総計で59.83カラット用いられ、そこに計100.21カラットのダイヤモンドを添えたジュエリーはその圧倒的な美しさで人々の関心を奪ったのである。当時で3500万ドル(約39億円)という高価格と共に驚異的なクリエーションとして雑誌「フォーブス」で報じられたのも記憶に新しい。
このジュエリーを手掛けたのが、現在香港に本部を置き活躍する「ファイディー(FAIDEE)」である。日本ではまだあまりその名は知られていないが、ファイディーは世界におけるルビーのトップシェアを誇ってきた一族が創設したブランド。25年前からジュエリーの製作を開始したばかりの、新進気鋭のジュエラーである。彼らが手掛けるジュエリーはサザビーズやクリスティーズなどのオークションでルビーとしての最高額を記録し、宝飾界の歴史を塗り替えてきた。その母体となるビルマ産ルビーの供給会社を1910年に創設したループ・チャンド・ルニア氏は“ビルマ産ルビーの王”と呼ばれ、名だたるハイジュエラーにもルビーを供給してきた人物。ルニア家は4世代にわたりルビーおよび後に述べる、カシミール産サファイアの世界に深く携わってきた。
曽祖父ループ・チャンド・ルニアの意志を引き継いだのが、3人の兄弟。4世代を超えて受け継がれてきたファイディーのルビーは、ファミリーの歩みそのものでもあると、同家の3男であり、日本担当としてブランドを束ねてきたラフール・ルニア氏は語る。
「ルビーの中でもビルマ産の非加熱は特に希少とされていますから、一粒のリングはともかく、“Grand Phoenix(偉大なる不死鳥)”のように、多くの石を使うネックレスはなかなか目にすることができません。長い歴史を持つルビーの供給元だからこそ、このようなクリエーションが可能となるのです。現在一番多いとされるモザンビーク産が紫がかった特徴をもつのに対し、ビルマ産は濃く赤い発色を魅力とします。今はほとんどの鉱山も閉めてしまい、ビルマ産の供給量は格段に少なくなり、高品質のものに関しては1パーセントの産出量にも満たないというのが現状といえるでしょう」
赤一色に思われがちなルビーだが、実はその色にも100種類以上の色が存在する。ファイディーはルビーの品質基準をきちんとした鑑識眼と共に“明確化”することにも力を注いできた。例えばビルマ産のルビーといえば、すぐに思い起こされるのが鳩の血と呼ばれる“ピジョン ブラッド”。ピジョン ブラッドだけでも3種類以上のグレードがあり、クラリティ(透明度)の一方で、カッティングとポリッシングがルビーの“色”と“照り”を左右する。たとえばカッティングのアングルがほんの少し違っただけで、ルビーの色は全く異なるものとなるからだ。そこでファイディーではカッティングを終えた後に、デザインに石をアレンジした上で、納得がいくまで再度リカット。通常は3回程度のポリッシュも4、5回行うのが、ファイディーのこだわりである。
長年の経験値が生み出す緻密な“職人たちの眼”が宝石本来の美しさを導き出すと、ファイディーは考える。すぐれた研磨技術を持つ職人たちとの連携から始まり、デザインからセッティングに至るまで、宝飾品になるまでの一環製作をすべてファイディーは自社工房内で行っている。例えばそれは希少な宝石にふさわしい華麗なデザインや、例えば輝きを活かすための小さな爪を用いたセッティング、そして地金の繊細で美しい仕上げであったり……。ジュエリーを完成させるための細部への芸術的なこだわりも、ファイディーのジュエリーの見どころの一つである。
そんなファイディーがルビー同様、ファミリーの“もう一つの宝”としてこよなく愛してきたのが、いまや“幻の宝石”と呼ばれるカシミール産のサファイアだ。現在あるほとんどのカシミール産が既に世に出回った還流品とされており、曾祖父ループ・チャンド・ルニア氏が活躍していた100年ほど前には、すでに鉱山での採掘も制限をかけられていたが、ファイディーではそのときに入手した希少な裸石(ルース)を保管。驚くべき程の数のストックから、カシミール産サファイアを惜しみなく用いたハイジュエリーを製作している。写真にある11.07カラットを誇るペアシェイプ・サファイアのリングなどはまさにそんな宝の原石から誕生したジュエリーである。
「このリングは米国宝石学会のGIAが“コーンフラワーブルー”と証明した、非常に希少な宝石です。紫がかったロイヤルブルーとは異なり、濃すぎない色のバランスが、実にエレガント。いつまで眺めていても飽きない魅力を放ちます」と語るラフール氏。彩度の高い、柔らかな色目のサファイアは、まさにカシミール産の特徴であり、ほかにもクジャクのように美しい色目も存在するなど、その魅力は尽きることがないという。
カッティングとポリッシュの過程においても、青と無色の構造からなるサファイアは、上から見たときに色が出るため、原石の中にある色のラインやポイントを見極める職人の眼が求められる。一面一面の研磨が品質を大きく左右するが故、ラフール氏が先に語ったような“熟練の感性”がここでも必要とされるのだ。例えばサファイアの特長である細長い原石の形から生み出されたのは、世界でも類を見ない10カラットの大きさと豊潤で濃厚な色合いを湛えたクッションシェイプのサファイア。先に述べたペアシェイプ・サファイア同様、カシミール産サファイアにふさわしいトップクラスのダイヤモンドと共に見事な輝きのジュエリーへと仕上げられていく。いずれも小売販売価格は推定数億円を誇るという圧倒的な価値には、石の大きさや色目だけでなく、透明感、輝き共に総合的な観点から最高のレベルを求めてきた同社の矜持を覗き見ることができるだろう。
「例えば色を均等に出すことに成功したこのペアシェイプは、現代の技術と新たな理論から生み出された宝石。ネックレスひとつをとっても、使用するすべての宝石の色とカットなどの要素がきちんと均一に揃わないとできないため、製作には数年の歳月がかかります。過去から受け継がれてきた貴い財産を、現代の技術と発想でどれだけ美しく蘇らせることできるのか――我々にとっての新たな挑戦でもあるのです」
このジュエリーを手掛けたのが、現在香港に本部を置き活躍する「ファイディー(FAIDEE)」である。日本ではまだあまりその名は知られていないが、ファイディーは世界におけるルビーのトップシェアを誇ってきた一族が創設したブランド。25年前からジュエリーの製作を開始したばかりの、新進気鋭のジュエラーである。彼らが手掛けるジュエリーはサザビーズやクリスティーズなどのオークションでルビーとしての最高額を記録し、宝飾界の歴史を塗り替えてきた。その母体となるビルマ産ルビーの供給会社を1910年に創設したループ・チャンド・ルニア氏は“ビルマ産ルビーの王”と呼ばれ、名だたるハイジュエラーにもルビーを供給してきた人物。ルニア家は4世代にわたりルビーおよび後に述べる、カシミール産サファイアの世界に深く携わってきた。
曽祖父ループ・チャンド・ルニアの意志を引き継いだのが、3人の兄弟。4世代を超えて受け継がれてきたファイディーのルビーは、ファミリーの歩みそのものでもあると、同家の3男であり、日本担当としてブランドを束ねてきたラフール・ルニア氏は語る。
「ルビーの中でもビルマ産の非加熱は特に希少とされていますから、一粒のリングはともかく、“Grand Phoenix(偉大なる不死鳥)”のように、多くの石を使うネックレスはなかなか目にすることができません。長い歴史を持つルビーの供給元だからこそ、このようなクリエーションが可能となるのです。現在一番多いとされるモザンビーク産が紫がかった特徴をもつのに対し、ビルマ産は濃く赤い発色を魅力とします。今はほとんどの鉱山も閉めてしまい、ビルマ産の供給量は格段に少なくなり、高品質のものに関しては1パーセントの産出量にも満たないというのが現状といえるでしょう」
赤一色に思われがちなルビーだが、実はその色にも100種類以上の色が存在する。ファイディーはルビーの品質基準をきちんとした鑑識眼と共に“明確化”することにも力を注いできた。例えばビルマ産のルビーといえば、すぐに思い起こされるのが鳩の血と呼ばれる“ピジョン ブラッド”。ピジョン ブラッドだけでも3種類以上のグレードがあり、クラリティ(透明度)の一方で、カッティングとポリッシングがルビーの“色”と“照り”を左右する。たとえばカッティングのアングルがほんの少し違っただけで、ルビーの色は全く異なるものとなるからだ。そこでファイディーではカッティングを終えた後に、デザインに石をアレンジした上で、納得がいくまで再度リカット。通常は3回程度のポリッシュも4、5回行うのが、ファイディーのこだわりである。
長年の経験値が生み出す緻密な“職人たちの眼”が宝石本来の美しさを導き出すと、ファイディーは考える。すぐれた研磨技術を持つ職人たちとの連携から始まり、デザインからセッティングに至るまで、宝飾品になるまでの一環製作をすべてファイディーは自社工房内で行っている。例えばそれは希少な宝石にふさわしい華麗なデザインや、例えば輝きを活かすための小さな爪を用いたセッティング、そして地金の繊細で美しい仕上げであったり……。ジュエリーを完成させるための細部への芸術的なこだわりも、ファイディーのジュエリーの見どころの一つである。
そんなファイディーがルビー同様、ファミリーの“もう一つの宝”としてこよなく愛してきたのが、いまや“幻の宝石”と呼ばれるカシミール産のサファイアだ。現在あるほとんどのカシミール産が既に世に出回った還流品とされており、曾祖父ループ・チャンド・ルニア氏が活躍していた100年ほど前には、すでに鉱山での採掘も制限をかけられていたが、ファイディーではそのときに入手した希少な裸石(ルース)を保管。驚くべき程の数のストックから、カシミール産サファイアを惜しみなく用いたハイジュエリーを製作している。写真にある11.07カラットを誇るペアシェイプ・サファイアのリングなどはまさにそんな宝の原石から誕生したジュエリーである。
「このリングは米国宝石学会のGIAが“コーンフラワーブルー”と証明した、非常に希少な宝石です。紫がかったロイヤルブルーとは異なり、濃すぎない色のバランスが、実にエレガント。いつまで眺めていても飽きない魅力を放ちます」と語るラフール氏。彩度の高い、柔らかな色目のサファイアは、まさにカシミール産の特徴であり、ほかにもクジャクのように美しい色目も存在するなど、その魅力は尽きることがないという。
カッティングとポリッシュの過程においても、青と無色の構造からなるサファイアは、上から見たときに色が出るため、原石の中にある色のラインやポイントを見極める職人の眼が求められる。一面一面の研磨が品質を大きく左右するが故、ラフール氏が先に語ったような“熟練の感性”がここでも必要とされるのだ。例えばサファイアの特長である細長い原石の形から生み出されたのは、世界でも類を見ない10カラットの大きさと豊潤で濃厚な色合いを湛えたクッションシェイプのサファイア。先に述べたペアシェイプ・サファイア同様、カシミール産サファイアにふさわしいトップクラスのダイヤモンドと共に見事な輝きのジュエリーへと仕上げられていく。いずれも小売販売価格は推定数億円を誇るという圧倒的な価値には、石の大きさや色目だけでなく、透明感、輝き共に総合的な観点から最高のレベルを求めてきた同社の矜持を覗き見ることができるだろう。
「例えば色を均等に出すことに成功したこのペアシェイプは、現代の技術と新たな理論から生み出された宝石。ネックレスひとつをとっても、使用するすべての宝石の色とカットなどの要素がきちんと均一に揃わないとできないため、製作には数年の歳月がかかります。過去から受け継がれてきた貴い財産を、現代の技術と発想でどれだけ美しく蘇らせることできるのか――我々にとっての新たな挑戦でもあるのです」
【イベント情報】
〈ファイディー〉フェア
会期:日本橋三越本店 12月5日〜16日、伊勢丹新宿店本館 12月19日〜25日
会場:日本橋三越本店本館6階 スペース#6
伊勢丹新宿店本館4階=ジュエリー&ウォッチ/ジュエリープロモーション
<問い合わせ先>
伊勢丹新宿店 03-3352-1111(大代表)
日本橋三越本店 03-3241-3311(大代表)
URL:https://my.ebook5.net/isetan/jandw/
〈ファイディー〉フェア
会期:日本橋三越本店 12月5日〜16日、伊勢丹新宿店本館 12月19日〜25日
会場:日本橋三越本店本館6階 スペース#6
伊勢丹新宿店本館4階=ジュエリー&ウォッチ/ジュエリープロモーション
<問い合わせ先>
伊勢丹新宿店 03-3352-1111(大代表)
日本橋三越本店 03-3241-3311(大代表)
URL:https://my.ebook5.net/isetan/jandw/