サイエンスなのか、アートなのか、フィクションなのか、リアルなのか…。「バイオテクノロジーの力で、現代版のアフロディーテを作ちゃおう!というのが今回のプロジェクト」と話すのは、グッチ(GUCCI)新宿で開催中の「Tranceflora - エイミの光るシルク」展を企画・主導したスプツニ子!。同展はスプツニ子!が勤めるMITメディアラボでの研究発表の場で、彼女の斬新なアイデアがグッチの目に留まったことがきっかけで始まったのだという。
アフロディーテはギリシャ神話に登場する、愛と美と創造の女神。“海から生まれ、薔薇の香りに包まれ、オリンポスの神々を魅了した”というエピソードは今回の展示テーマに通ずるものがある。彼女のインスピレーション源となったのは「1966年からあるグッチの『フローラ』。植物や花や昆虫をモチーフにしているが、環境やバイオテクノロジーによって自然そのものが変様している。フローラの未来を考えたときに、『トランスフローラ』をプロジェクトのテーマにしようと思った」と話す。
2008年に光るシルクの開発の成功した、筑波の農業生物資源研究所(以下、生物研)とのコラボレーションによって、同プロジェクトは始動。「最先端のシルクをあえて400年以上の歴史がある西陣織に織り込む事で、伝統と革新がドッキングしたものにしたかった」とスプツニ子!。この光るシルクの西陣織を作る為、プロジェクトユニット「ゴオン(GO ON)」のメンバーでもある細尾真孝に製作を依頼した。この生地を使ってエイミの“勝負ドレス”に仕上げたのは串野真也だ。
生物研は、現在、スプツニ子!と共同で薔薇の香りがするシルクや、オキシトシンという恋愛ホルモンが組み込まれたシルクも開発も始めており、既に“恋に落ちるかもしれないシルク”の開発に着手。完成までに半年から1年を見込んでいるそうだ。
つまり光るシルクでドレスを作る構想は、海から誕生したアフロディーテを神話からリアルにする為のファーストステップ。海の生物であるクラゲや珊瑚から発光する遺伝子を取り出し、その遺伝子を注入した蚕からできた糸を使っている。今後、薔薇の香りのシルク、恋するかもしれないシルクが完成すれば、近い将来、現代版アフロディーテは現実のものになるだろう。
ベルベッタ・デザイン、長谷川喜美の手がける幻想的な空間に、光るシルクのドレスや、光る遺伝子を注入された蚕の成虫の標本、紡がれる前の糸や生地が展示されている。来場者にはLEDライトの光をカットするフィルム眼鏡が配られる。会場内は光るシルクを効果的に演出するため、LED照明でライトアップしているが、この眼鏡を通して見る事で自然な状態の色も観察することができる。
メインビジュアル・ショートフィルム・ロゴデザインを手がけた泉谷和範と、フォトグラファーの亀井隆司のふたりによって、フューチャリスティックなエイミの世界観がビジュアルと映像作品に落とし込まれた。進化するバイオテクノロジーと伝統技術によって紡ぎ上げられたフローラの未来像を目の当たりにすることで、ファンタジーとリアルの境界線が曖昧になったような感覚を味わえるだろう。
【イベント情報】
「Tranceflora - エイミの光るシルク」展
会場:グッチ新宿3階 イベントスペース
住所:東京都新宿区新宿3-26-11 新宿高野ビル
期間:4月23日~5月17日
時間:11:00~20:00
入場無料・会期中無休