パリに移住した当初、文化の違いを最も感じたのは、フランス人の恋愛に対する寛容さだった。私の母が数十年前に離婚して以来、新たなパートナーは居ないことを言うと「恋をしないでどうやって生きているの!? 」と真剣な目で問い詰められた。「子供に秘密にしているだけで、きっといるわ。だって恋をしないなんて有り得ないじゃない! 」と真っ向から否定されたこともある。私が「だって母はもう50代だし…。」なんて言ったものなら、恋愛についての議論が延々と始まるのだ。日本だと母のような存在は、自身の人生も恋愛も投げ打って、すべてを子供に尽くす勤勉で素晴らしいシングルマザーのように語られるが、フランスでは違うらしい。男性も女性も死ぬまで恋愛をするべきで、それこそが仕事や子育て、人生すべてのエネルギー源になるのだと考える傾向にあるため、恋愛なしでどこから力が湧いてくるのか理解不能なよう。過去に、フランスの大統領が堂々と不倫をしても、支持率が落ちないどころか上がったという事実もある。2014年にオランド前大統領の不倫が発覚した際も、77パーセントの国民は「個人的なこと」と回答するなど、他人のプライベートに過剰に立ち入らず、恋愛については極めて寛容な国民性が見て取れる。移住して4年目、完全にフランス的思考回路にはなっていないけれど、恋愛に年齢制限を設けない考え方は素敵で、自分もそうでありたいと思うようになった。
事実、フランス人はいくつになっても恋愛をしている。フランス出身30代の男友達は年末年始のバカンスを、離婚した実の両親と、それぞれのパートナーと一緒に過ごしていた。母親のアンヌ60歳は出版社に勤める編集者で、今のパートナーとは10年近く一緒に住んでいるという。離婚といっても結婚をしたことはなく、前パートナー(彼の父親)とも事実婚だったそう。籍を入れない理由については「必要不可欠なことではないから」と淡白な答えだった。前パートナーはイラストレーターで、編集者である彼女は彼といくつもの共同作業を手掛けてきたのだと振り返る。仕事、恋愛、子供とすべてを共有して歩んできた二人だが、やがて別々の道を選ぶことに。「事実婚を解消したことを失敗のようには捉えていない。一緒に重ねた時間と経験は私たちにとってかけがえのない事実であり、家族としての繋がりで残り続けるから」。ぶしつけながらも事実婚を解消した理由を尋ねると「長期的な共同生活が物事を変えるのは確か。初期に持った相手に対する情熱は、アップダウンあるさまざまな人生の瞬間によって、優しさへと変容していった。人生における共通の経験(同棲、出産など)は絆を強めたり、視野を変えることもある。もし意見が食い違うことがあれば、一緒に居なくてはいけない理由はないし、別々に生活することを考えるべき」だと、人生の変化の中で互いの生き方・価値観を尊重した上での別れだと教えてくれた。「別れは必ずしも簡単なことではない。利己的に生きる選択ではなく、よく話し合った中で自分の選択を受け入れることが重要」。
たとえ事実婚解消や離婚が前向きな決断だとしても、恋の痛手は負ってしまう。大恋愛であればあるほど、その傷も深いものだ。失恋後に「もう恋なんてしない!」と一時的でも心に決める人も少なくないはず。アンヌも「当時恋を求めてはいなかったのよ」と言う。「19年前知り合った今のパートナーは友人グループの中の一人で、恋人という関係ではなく、人としてお互いを知るために長い時間を費やした。私たちはそれまでの人生で長いストーリーを持っていて、親としての役割が第一だという考えは共通なの」。いくつかの恋愛を経ても、アンヌの愛の定義は変化していないそう。「愛とは理解と協調、欠点を含め相手を容認するすべての混合。同じ価値観を持ち、前向きで、そしてある程度の“独立性”をキープすることを理解していること」だと、やはりフランス人にとって恋愛においても個人主義の考えが根底にあることが分かる。
「関係性は変わっても、“愛情”はずっと残っている」。様々な経験を共有し、親という役割を担う前パートナーとの関係性は、ある種の愛であり唯一無二。すべてを受け入れた上で、独立性を維持する成熟した現パートナーとの関係性も、疑うことなく愛なのだ。否が応でも変化し続ける人生の中で、流れに逆らうことなく受け入れ、自身を貫く強さは女性として人として美しいと思う。惰性と妥協の関係性に固執するのではなく、見切りをつけて何かに終止符を打つことは、また新たな物語の始まりを意味しているはず。きっとそこに年齢は関係ない、自分次第なのだ。ちなみに私の母は今年からパリに移住する予定。誰と、どんな形で愛を育んでいくのか楽しみでならない!
>>「結婚」なんて古い!? フランス女性に聞いたリアルな恋愛観。
事実、フランス人はいくつになっても恋愛をしている。フランス出身30代の男友達は年末年始のバカンスを、離婚した実の両親と、それぞれのパートナーと一緒に過ごしていた。母親のアンヌ60歳は出版社に勤める編集者で、今のパートナーとは10年近く一緒に住んでいるという。離婚といっても結婚をしたことはなく、前パートナー(彼の父親)とも事実婚だったそう。籍を入れない理由については「必要不可欠なことではないから」と淡白な答えだった。前パートナーはイラストレーターで、編集者である彼女は彼といくつもの共同作業を手掛けてきたのだと振り返る。仕事、恋愛、子供とすべてを共有して歩んできた二人だが、やがて別々の道を選ぶことに。「事実婚を解消したことを失敗のようには捉えていない。一緒に重ねた時間と経験は私たちにとってかけがえのない事実であり、家族としての繋がりで残り続けるから」。ぶしつけながらも事実婚を解消した理由を尋ねると「長期的な共同生活が物事を変えるのは確か。初期に持った相手に対する情熱は、アップダウンあるさまざまな人生の瞬間によって、優しさへと変容していった。人生における共通の経験(同棲、出産など)は絆を強めたり、視野を変えることもある。もし意見が食い違うことがあれば、一緒に居なくてはいけない理由はないし、別々に生活することを考えるべき」だと、人生の変化の中で互いの生き方・価値観を尊重した上での別れだと教えてくれた。「別れは必ずしも簡単なことではない。利己的に生きる選択ではなく、よく話し合った中で自分の選択を受け入れることが重要」。
たとえ事実婚解消や離婚が前向きな決断だとしても、恋の痛手は負ってしまう。大恋愛であればあるほど、その傷も深いものだ。失恋後に「もう恋なんてしない!」と一時的でも心に決める人も少なくないはず。アンヌも「当時恋を求めてはいなかったのよ」と言う。「19年前知り合った今のパートナーは友人グループの中の一人で、恋人という関係ではなく、人としてお互いを知るために長い時間を費やした。私たちはそれまでの人生で長いストーリーを持っていて、親としての役割が第一だという考えは共通なの」。いくつかの恋愛を経ても、アンヌの愛の定義は変化していないそう。「愛とは理解と協調、欠点を含め相手を容認するすべての混合。同じ価値観を持ち、前向きで、そしてある程度の“独立性”をキープすることを理解していること」だと、やはりフランス人にとって恋愛においても個人主義の考えが根底にあることが分かる。
「関係性は変わっても、“愛情”はずっと残っている」。様々な経験を共有し、親という役割を担う前パートナーとの関係性は、ある種の愛であり唯一無二。すべてを受け入れた上で、独立性を維持する成熟した現パートナーとの関係性も、疑うことなく愛なのだ。否が応でも変化し続ける人生の中で、流れに逆らうことなく受け入れ、自身を貫く強さは女性として人として美しいと思う。惰性と妥協の関係性に固執するのではなく、見切りをつけて何かに終止符を打つことは、また新たな物語の始まりを意味しているはず。きっとそこに年齢は関係ない、自分次第なのだ。ちなみに私の母は今年からパリに移住する予定。誰と、どんな形で愛を育んでいくのか楽しみでならない!
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【プロフィール】
ELIE INOUE
パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける。主な寄稿媒体はFASHION HEADLINE、WWD Japan、ELLE Japan等。
ELIE INOUE
パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける。主な寄稿媒体はFASHION HEADLINE、WWD Japan、ELLE Japan等。