ファッションが時代を映し出すように、アイドルもまたその時代を物語るのではないだろうか。安室奈美恵が「CAN YOU CELEBRATE?」を歌ったあの頃、街にはバーバリーブルーレーベルのミニスカートの少女たちが溢れていた。90年代、2000年代、それぞれの時代の空気と共に、ファッションや音楽、そしてアイドルたちも人々の思い出の中に確かに刻まれていくのだろう。
2015年1月某日、都内のスタジオに現れたのはももいろクローバーZ(以下、ももクロ)のメンバーたち。早朝、私服で現れたメンバーたちは、カラフルな衣装に身を包んだ“アイドル”というより、等身大の少女たちといった印象だ。ほんの1週間前に埼玉スーパーアリーナで、数万人を前にしたステージの熱量を見ていたこちらは、その自然体な彼女たちに少しほっとしたりもした。今日、このピュアな少女達に、ファッションの魔法で変身を遂げてもらうのだ。この日は、思いっきり「少女」になってもらいたい。これまでにない、ももクロのイメージを作りたいとスタッフたちは準備を重ねていた。
この日、ももクロのメンバーたちは「ピンクハウス(PINK HOUSE)」の15年春夏のイメージビジュアルを撮影するためにスタジオ入りした。30周年を迎えた同ブランドが2月18日から伊勢丹新宿店本館2階TOKYO解放区で「PINK HOUSE―flower shower・永遠の少女性―」と題したポップアップショップをオープンした。ももクロメンバーが春を告げるミューズとして選ばれたのだ。
■ある秋の日のこと、デザイン画を持ってメンバーの元へ
遡ること約1ヶ月半前、秋も深まった11月のある日のこと。スタジオでリハーサル中のももクロメンバーの元をピンクハウスのデザイナーと伊勢丹バイヤーが尋ねた。ピンクハウスがももクロメンバーをイメージして書き下ろしたビジュアル撮影のデザイン画を見せるためである。練習を終えた彼女たちが打ち合わせの場にやってきた。マネージャーが見守る中、メンバーに「ピンクハウスの春のイメージビジュアルをお願いしたい」と告げる。佐々木から「わぁ、ピンクハウス!ママが大好きなの、早く教えたい!」と歓声が溢れた。
メンバーたちも、デザイナーがメンバーそれぞれのキャラクターとピンクハウスが持つアーカイブや世界観から描き出した手描きのデザイン画を広げていく。彼女たちは時にため息を漏らしながら、目の前に広がるデザイン画を見つめていた。彼女達が“ピンクハウスを知っているか”という不安が一気に吹き飛ばされたこともあり、その場にリラックスした空気が流れた。最後にメンバーに意見を求めると、普段からパンツを着ることが多いという高城から「パンツスタイルはどうですか」という提案があった。そんな宿題をもらって、この日の打ち合わせは終了した。
そこから1ヶ月あまりの間に急ピッチで撮影に向けた準備は進められた。メンバーが着る撮影用アイテムだけではなく、実際に店舗で販売する商品準備も同時進行だった。
後編に続く。