イタリア・ミラノで2月16日より4日間、国際的なバッグ見本市の第117回MIPELが開催された。イタリアのレザーブランドを中心に約300社のバッグメーカーが出展する同見本市は、新型コロナウィルスの影響で中国から国内への航空便の乗り入れ停止になり、極東アジアからの来場者が減少したが、ロシア、ウクライナからの来場者が増え、昨年2月展よりMIPELの総来場者は11%増加の結果となった。
同展が行われているローフィエラ会場では同時に靴の国際見本市MICAMも開催されたが、「いつもよりゆっくりブースで商品を見る時間が取れ、商談も落ち着いてできた」(日本のセレクトショップバイヤー)と初日に訪れたバイヤーの声もあった。
新型肺炎パンデミック直前に開催されたMIPELとMICAM、中国支援をメッセージしたMFW
MIPELの会期3日目よりスタートした2020/21年AWミラノファッションウィークは来伊できない中国のデザイナー、バイヤーに向けて「CHAINA WE ARE WITH YOU」というスローガンを掲げ、ショーが予定されており開催できなかったデザイナーの作品を本部の設置されているペルマネンテ美術館に展示、公式ランウェイをすべてストリーミング配信するなど協会を挙げて支援策を打ち出したが、ウィーク終盤のロンバルディア州における新型コロナウィルスの感染拡大で、23日のジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)が無観客ショーに切り替え、最終日には日本から参加のアツキナカシマなど予定されていたショーはすべて中止になり、状況は大きく変化した。
この北イタリアでの感染急拡大の約1週間前に開催されたMIPELでは会場入り口で除菌ジェルと除菌ティッシュが配られるなどの対応が図られたが、夜には会場でパーティーイベントが行われるなど予定通り4日間の開催を終えた。
今回のテーマは2019年の2月、9月展同様に「サスティナビリティ」が継続され、会場全体には1500鉢のアイビーが設置された。
「今回、我々はサスティナビリティを工業的、環境的、社会的という3つの観点から検証した。特に社会的(ソーシャル)観点からのサスティナビリティは伊レザーバッグ産業の姿勢と背景を伝えるものとして重要だ」と話すのはダニー・ダレッサンドロ・イタリア皮革製品メーカー協会ゼネラルマネジャー兼MIPEL・CEO&ゼネラルマネジャー。同協会ではエミリオ・ロマーニャ州のアドリア海沿岸リミニにある職業訓練施設(SAN PATRIGNANO)が麻薬中毒者などの社会復帰に向けて1978年よりレザー職人を育成していることや皮革関係のスクールの卒業生が90%以上の高い就職率を誇っていることなどグローバルな社会問題へ貢献していることなどを会場内のワークショップで取り上げ、レザー産業とサスティナブルな関係を紹介。イタリアが誇る植物タンニンなめしやエコ、リサイクルなどプロダクトにおけるサスティナブルな取り組みは、会場中央のシナリオ(SCENARIO)ゾーンで小規模ながらイノベイティブでコンテンポラリーな商品を展開するブランドがイタリア国内外から集められた。
NYを拠点に15年前にスタートした「アルケミ アトリエ(ALKeMe ATeLirR)」はフィリピンのパイナップルの葉をスペインで生産するバッグや、イタリアのワインのぶどうやメキシコのサボテン、リサイクルプラスティックなどのアニマルスキン以外のエコレザーで商品を構成。ポルトガルのアルテルサ(arutelusa)のコルクバッグ、台湾の「スタジオスモール(STUDIO SMOLL)」はトスカーナの植物タンニンなめしレザーをレーザーカットし、パーツをネジトレンチで組み立てることでリサイクルするというコンセプト。
日本の折り紙のアイデアは2021SSのバッグ全体的なトレンドにもピックアップされており、シチリアのパレルモにアトリエを構える「スパッツオイフ(SPAZIOIF)」でも新作はミニマムな“origami”テクニックがテーマとなっていた。
このOrigamiに見られるマテリアルの3Dアプローチ、アジアンモダンなミニマムなデザインがピックアップされる一方、クラシックなテクニックやモチーフが見直されておりイタリアのエンブロイダリーのモチーフをレザーに施すクオイエリア・フィオレンティーナ(CUOIERIA FIORENTINA)や2019年4月にローンチしたラツィオのアルビトにアトリエを構えるエレモ(EREMO)はサスティナビリティに配慮したデザイン背景を美しい曲線で描き出している。またヒョウ柄などのアニマルパターンは光沢やエイジングやエンボスなどさまざまな素材の加工と共に、フィレンツェの老舗バッグメーカーのブラッツィアリーニ(braccialini)でも動物やアニメなどのキャラクターモチーフが増えている。
日本からは日本皮革産業連合から6社が出展。清川商店が職人磨きの口金と一枚革でフォーマルなバッグに仕上げたKIYOKAWA、友禅を革に施したCALDO TOKYO JAPAN、絹やが天然藍で染めたKinuya Indigo、北海道のアトリエメイドSaveur、ドイツのiFデザイン賞を受賞している豊岡バッグのアートフィアー、ヴィンテージ着物の反物とレザーをミックスしたWABI WORLDが、それぞれ特徴を活かしたアイテムを出展。なかでもWABIの提灯型バッグとアートフィアーのリュックがトレンドエリアにも展示され、注目を集めた。
また兵庫県豊岡に拠点を構えるバッグメーカー11社が合同で昨年の香港に続いて、今回初めてMIPELにブースを出展。サンタクローチェの撥水レザー、井原デニムや眼鏡の鯖江とのコラボなどで、高い商品力を誇る豊岡の技術はバイヤーにも好評。イタリアの同業者からも一様に高い評価を得ていたが、OEMの苦境によってファクトリーブランドがブランディングを急ぐ内実は両者同じ。日欧EPAが昨年1月に発効され、今後10〜14年かけて関税撤廃の動きはあるものの、まだまだ価格の壁は大きいのが実情だ。
「イタリアのレザー産業にとって今回の新型コロナ肺炎による影響は、次へと変革するひとつのターニングポイントとなるかもしれない。苦境を迎えていることは確かだが、2011年の経済危機やテロなどこれまでも4、5年おきに大きな壁に立ち向かい強くなってきた。次回9月のMIPEL第118回では展示ブースのデザインを含め大きな革命を起こす」とアレッサンドロ氏は強気だ。
Text by Tatsuya Noda