ファッションフォトとは実に奥が深いものだ。服やモデルの美しさだけでなく、レンズ越しの世界を構築するストーリーまでもが見る者を魅了し、空想の世界へといざなってゆくのだから。
果たして、色や光を自在に操り、人の心を揺さぶり続けているフォトグラファーの胸の内には、どのような想いが宿っているのだろうか。『GQ JAPAN』をはじめとする一流誌のファッションページのみならず、MVやTVCFの映像までをも手掛ける鬼才、Maciej Kucia(マチェイ・クーチャ/AVGVST)に話を伺った。
――Maciejさんの作品の中に佇む被写体からは、内なる魅力が色濃くにじみ出ているように感じられるのですが、撮影の際は細かなディレクションをなさっているのでしょうか。
いいえ全然。そもそも、その人自身が持っている本来の魅力というものは、ディレクションによって引き出せるものではないですから。僕はただ、与えられた撮影時間の中で「今!」というタイミングにシャッターを切ることによって、どのような化学反応を起こすことができるかを楽しんでいるだけなんです。
――撮影セットやスタイリングに関してアイディアを出すこともあるのでしょうか。
アートディレクターやクリエイティブディレクターにお任せすることも、相談しあって決めていくこともありますが、最近では、撮影テーマや方向性まで一任していただく機会も増えました。
そういう場合は特に、準備にはたっぷりと時間をかけます。まず、僕は日本で育ったわけではないので、撮影する女優や俳優についての予備知識がほとんどありません。ですので、撮影相手の名前を検索して、その人を撮影するならどんなイメージがいいかを考えることから始めます。そうすることによって、いざ撮影が始まる段には、どんなショットがほしいかについてのビジョンが明確になっているので、僅かな時間で撮り終えることも多いですね。
ちなみに、撮影相手のこれまでの活躍についてはほとんど知らないからこその発見もあるんですよ。どういうことかというと、撮り始めて初めて、「あれっ!? この人っていちいち反応がおもしろいなあ」とか「こんな一面もあるんだ」って気付かされるんです(笑)
――それはおもしろいですね。Maciejさんの気分が高まることで、相手もさらにいい表情をみせてくれそうです。ところで、そもそも来日のきっかけはなんだったのでしょうか?
単純に日本が好きだからです(笑) 本格的に移り住む前に一度旅行で訪れたことがあったんですけど、そのときにすごく日本のことを好きになって、ここで仕事がしたいって思ったんです。そこで、2000年には母国ポーランドでファッションフォトグラファーとして独立していたんですが、2008年には活動の拠点を東京に移して、フリーランスフォトグラファーとして活動を開始しました。
実は母と兄もフォトグラファーなので、小さい頃からコマーシャルフォトに関心が高かったんです。ですので、フォトグラファーになること自体は自分にとって必然的なことに思えるのですが、来日した理由となると、運命的な出会いということになるかもしれません。
――日本とポーランドのファッションフォトに違いってありますか?
日本のアートとヨーロッパのアートにおける違いと同じですね。おそらく、写真に影響を及ぼしている最も大きな要素って生活の中にあると思うんです。日本の家屋って、昔から窓が大きくて、しかも部屋を仕切るのは壁じゃなくて障子ですよね。それって、日本人が、白っぽい光の柔らくあたたかな雰囲気を好むからだと思うんです。一方、西洋人が好むのは暖色系。明るすぎない照明をよしとします。この違いって、写真にも如実に表れてますよね。西洋の写真がどこかドラマティックだったり映画のワンシーンのようだったりするのに対して、日本のものはとても明るくてやさしい印象。
それともうひとつの大きな違いは、ヨーロッパにおける色気と日本においての色気の差異により生まれるものでしょう。なぜって、セックスとファッションってすごく密接な関係にあるものですから。