パリ随一のブランド通り、サントノーレ通り348番地にバッグブランド「モワナ(MOYNAT)」のショップがある。
1849年にクーランビエ一家がトランクやバッグを製造する工房を設立。職人の娘であったポーリーヌ・モワナ(Pauline Moynat)が1869年に共同経営者となり、彼女の姓を冠した「モワナ」の歴史がスタートした。当時は自動車が普及し始めた時代。モワナは女性実業家として、自動車の屋根に積むためのトランクを製造販売しビジネスを成功させていったが、1976年にブランドはクローズしてしまう。
しかし2010年、LVMHグループのCEOであるベルナール・アルノー(Bernard Arnault)のプライベートカンパニーがブランドを買収。2011年11月にサントノーレ通りにショップをオープンし、ビジネスが再スタートした。フランス・バーガンディーに工房を構え、ルイ・ヴィトンジャパンヴァイスプレジデントとしても活躍したギヨーム・ダヴァン(Guillaume Davin)がCEO、クリエーティブ部門のヘッドをラメス・ネール(Ramesh Nair)が務めている。また、空間やグラフィックデザインは、日本を拠点に活動し、ルイ・ヴィトンの銀座並木通り店なども手掛けたグエナエル・ニコラ(Gwenael Nicolas)が担当している。
ショップの1階はウィメンズ、2階にはメンズのコレクションが並ぶ。「創業者が女性であることもあり、フェミニンなカラーバリエーションが特徴」とダヴァン氏は語る。自動車の屋根のカーブに合わせてデザインされたトランクの形からインスパイアされたフォルムのバッグや、猫の舌を意味する「cat’s tongue」と名付けられたキーロック、"M"をかたどったモノグラム模様など、アーカイブコレクションのデザインもエッセンスに取り入れられている。ウィメンズでは流線型がユニークなハンドバッグや、持ち手が2ウエイ使用になったトートバッグ、メンズでは大きめのボストンバッグやガジェットケースなどの小物類が人気という。価格帯は女性用のハンドバッグで2,000から3,000ユーロ。
ショップ上階には、世界中から集めたモワナのアーカイブが保管されている。ケネディ家が所有していたものや、日本のアンティークショップで発見された長崎の港のステッカーが付いたトランクもある。一つひとつ手で打ち込まれたスタッズや、1920年代にハンドペイントで描かれたモノグラム模様が、当時の高い職人技術を示す。ピクニックに行くための自転車用トランクや、シワが寄らないように工夫された船旅用のトランクなど、すべて顧客のライフスタイルに合わせてオーダーメイドで作られている。
更にアトリエも併設され、ネールがプロトタイプを開発中。その隣では、エコール・デ・ボザール(パリの美術学校)出身のアーティストの女性が、バッグにイニシャルを入れる作業を行っていた。
現在はパリの旗艦店のみでの展開だが、「顧客の3割が日本人なので、日本への進出もぜひ考えたい」とダヴァン氏。
また先日、「ナウネス(NOWNESS)」のメアリー・クラルテ(Mary Clerte)がディレクションする、モワナ初のイメージフィルムが公開された。主役はジャンヌ・ダマ(Jeanne Damas)が務め、1925年のパリ万国博覧会で賞をとったアールデコの傑作と称されるアーカイブのトランクが登場。老舗ブランドのアイデンティティーをフレッシュなイメージで表現し、新たなファン層の獲得を狙っていく。