芸術祭の楽しみには、作品鑑賞だけでなく、土地の人々との出会いや交流も含まれます。国内外のアーティストによって引き出された土地の魅力に触れると、グローバル化や都会のもつ限界、文明や人類の未来について、改めて考えるきっかけが生まれます。
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●4) 仁科三湖エリア―山々を映す湖と穏やかな人々の生活感
仁科三湖(北から、青木湖、中綱湖、木崎湖)は、糸魚川静岡構造線上にある、地殻の断層によって生じた湖。湖畔には「塩の道」が通り、日本海側の糸魚川からの山越えの道を、足腰の強い牛が運んできた塩は、ここで足の速い馬に積み替えられて信濃大町に入りました。木崎湖の湖畔には旅館や民宿が軒を連ね、その透明度から湖水浴ができるほど。ここでは4作品が鑑賞できます。
青木湖、中綱湖、木崎湖の3つの湖からなる仁科三湖エリア
フィリピン出身のアルフレイド&イザベル・アキリザン夫妻が、島の群れか、あるいは隊列を組んでパレードするかのような、数隻の船を湖面に浮かべました。この《ウォーターフィールド(存在と不在)》の作品、よく見れば、船には家々から持ち出された日用品が、えもいわれぬ組み合わせで搭載されています。それらは地元の人たちと共に集め、持ち寄った不用品。アーティストはこの作品を通して、環境破壊への警鐘、過疎化の寓意を表現しているといいます。波風に揺られるその姿は、可笑しくも、悲しくも愛おしくもあります。
アルフレド&イザベル・アキリザン《ウォーターフィールド(存在と不在)》photo by Tsuyoshi Hongo
対岸の桟橋には、人々との協働を通じて景色をつくり変えてきた五十嵐靖晃さんが、《雲結い(くもゆい)》という名で、湖と雲をつなぐ組紐を、地元の人々と組み上げました。細い綿糸320本をよりあつめ、25メートルの太い糸8本を準備し、その8本をみんなで天に向かって組み上げ、作品を完成させました。「この地域では、相互扶助のことを『ええっこ』と呼びます。養蚕が盛んな地域とあって、作業場で糸を巻いていたら、『糸巻きあるよ』とみんながもってきてくれました。糸には協働した人たちの手の痕跡が残っています」。人と人、命と命のつながり、言葉を超えたコミュニケーションを感じたという五十嵐さん。「僕自身、信濃大町に来てから、空を見上げる機会が増えました。海では水平につながる世界を意識していましたが、ここでは垂直方向、空からつながる世界を感じてほしい」。
五十嵐靖晃《雲結い(くもゆい)》photo by Tsuyoshi Hongo
元旅館だった空き家では、地域の民話や素材を活かしたまちづくりに取り組むYAMANBAガールズが、《おこひるの記憶》と題して、信濃大町の暮らしや文化、生活の知恵を、食とともに提供するプロジェクトを行っています。子どもの健やかな成長を願う端午の節供や、農家の晴れの行事である田植えの「おこひる」(農作業の間に食べる軽食)などの初夏の郷土食を、それぞれにまつわる民話の語りとともに、地元の女衆が提供してくれます。開催は会期中の土日祝。事前予約を忘れずに(料金1,500円 TEL: 090-4461-3863)。
YAMANBAガールズ《おこひるの記憶》photo by Tsuyoshi Hongo
YAMANBAガールズのメンバー
元旅館ろまんすがこのプロジェクトの舞台に
●5) 市街地エリア―昭和風情の残る商店街
市街地を貫く本通りは「塩の道」。いまなお床下に水路が通る家屋が並び、そこここで水音が聞こえます。本通りを挟んで東側に女清水、西側に男清水が湧き、通りを境界に水系が異なり、飲み比べると味が違います。古い商店街、空き家、空き店舗などを舞台に、合計9作品が鑑賞できます。
昭和の風情と味わいを残す「大町名店街」。この名店街に軒を連ねる共同作業所「がんばりやさん」で、台湾の絵本作家、ジミー・リャオ(幾米)さんが《私は大町で一冊の本に出逢った》という、小さくて可愛い書店を作りました。ジミーさんが描いた60種類(!)のブックカバーの掛けられた古書は、表紙を開いて読み始めるまで、中身が見えません。絵葉書やノート、ブックカバーなどのグッズも販売。あわせて街中に「街中図書館」を展開するなど、思いがけない本との出逢い、楽しさに改めて気づかされます。
ジミー・リャオ(幾米)《私は大町で一冊の本に出逢った》
街のいたるところに図書館
「大町名店街」から本通りを渡った反対側の空き店舗内には、大規模なインスタレーションで知られる栗林隆さんが《第一黒部ダム》を築きます。高さ186メートル、日本一の大きさを誇り、毎秒10トン以上もの豪快な放水を見せる、あの黒部ダムを差し置いて(?)、約1/40スケールに再現した黒部ダムと温泉を組み合わせた作品です。温泉に見立てられた「ダム湖」の水は足湯として利用可能。「世紀の大事業」に浸かりながら、旅の疲れを癒やしましょう。
●各所でイベント、皆川 明さんデザインの芸術祭公式グッズ
イベント・パフォーマンスは、先に触れたYAMANBAガールズのプロジェクトに加え、ダンサー・伊藤キムによる神出鬼没のパフォーマンス、菊地成孔をメンバーに加えたジャズビアニスト・山下洋輔のスペシャルカルテットライブ、おおたか静流と照明アーティスト/デザイナー・藤本隆行のコラボレーションによる七倉ダムでのコンサートと、盛りだくさんのラインアップです。
そして芸術祭公式グッズは、ミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明さんが、芸術祭のテーマ「水、木、土、空」をモチーフとしてデザインしました。信濃大町の紡績工場でつくられたTシャツ(3色)は売り切れ必至。手ぬぐい、ポストカードなどの小物もあり、旅の思い出をお土産として持ち帰ることができます。それぞれの日常に戻っても、ときおり滔々と流れる信濃大町の澄んだ水音が聞こえてくる、それが旅の最大のお土産なのかもしれません。
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仁科三湖(北から、青木湖、中綱湖、木崎湖)は、糸魚川静岡構造線上にある、地殻の断層によって生じた湖。湖畔には「塩の道」が通り、日本海側の糸魚川からの山越えの道を、足腰の強い牛が運んできた塩は、ここで足の速い馬に積み替えられて信濃大町に入りました。木崎湖の湖畔には旅館や民宿が軒を連ね、その透明度から湖水浴ができるほど。ここでは4作品が鑑賞できます。
青木湖、中綱湖、木崎湖の3つの湖からなる仁科三湖エリア
フィリピン出身のアルフレイド&イザベル・アキリザン夫妻が、島の群れか、あるいは隊列を組んでパレードするかのような、数隻の船を湖面に浮かべました。この《ウォーターフィールド(存在と不在)》の作品、よく見れば、船には家々から持ち出された日用品が、えもいわれぬ組み合わせで搭載されています。それらは地元の人たちと共に集め、持ち寄った不用品。アーティストはこの作品を通して、環境破壊への警鐘、過疎化の寓意を表現しているといいます。波風に揺られるその姿は、可笑しくも、悲しくも愛おしくもあります。
アルフレド&イザベル・アキリザン《ウォーターフィールド(存在と不在)》photo by Tsuyoshi Hongo
対岸の桟橋には、人々との協働を通じて景色をつくり変えてきた五十嵐靖晃さんが、《雲結い(くもゆい)》という名で、湖と雲をつなぐ組紐を、地元の人々と組み上げました。細い綿糸320本をよりあつめ、25メートルの太い糸8本を準備し、その8本をみんなで天に向かって組み上げ、作品を完成させました。「この地域では、相互扶助のことを『ええっこ』と呼びます。養蚕が盛んな地域とあって、作業場で糸を巻いていたら、『糸巻きあるよ』とみんながもってきてくれました。糸には協働した人たちの手の痕跡が残っています」。人と人、命と命のつながり、言葉を超えたコミュニケーションを感じたという五十嵐さん。「僕自身、信濃大町に来てから、空を見上げる機会が増えました。海では水平につながる世界を意識していましたが、ここでは垂直方向、空からつながる世界を感じてほしい」。
五十嵐靖晃《雲結い(くもゆい)》photo by Tsuyoshi Hongo
元旅館だった空き家では、地域の民話や素材を活かしたまちづくりに取り組むYAMANBAガールズが、《おこひるの記憶》と題して、信濃大町の暮らしや文化、生活の知恵を、食とともに提供するプロジェクトを行っています。子どもの健やかな成長を願う端午の節供や、農家の晴れの行事である田植えの「おこひる」(農作業の間に食べる軽食)などの初夏の郷土食を、それぞれにまつわる民話の語りとともに、地元の女衆が提供してくれます。開催は会期中の土日祝。事前予約を忘れずに(料金1,500円 TEL: 090-4461-3863)。
YAMANBAガールズ《おこひるの記憶》photo by Tsuyoshi Hongo
YAMANBAガールズのメンバー
元旅館ろまんすがこのプロジェクトの舞台に
市街地を貫く本通りは「塩の道」。いまなお床下に水路が通る家屋が並び、そこここで水音が聞こえます。本通りを挟んで東側に女清水、西側に男清水が湧き、通りを境界に水系が異なり、飲み比べると味が違います。古い商店街、空き家、空き店舗などを舞台に、合計9作品が鑑賞できます。
昭和の風情と味わいを残す「大町名店街」。この名店街に軒を連ねる共同作業所「がんばりやさん」で、台湾の絵本作家、ジミー・リャオ(幾米)さんが《私は大町で一冊の本に出逢った》という、小さくて可愛い書店を作りました。ジミーさんが描いた60種類(!)のブックカバーの掛けられた古書は、表紙を開いて読み始めるまで、中身が見えません。絵葉書やノート、ブックカバーなどのグッズも販売。あわせて街中に「街中図書館」を展開するなど、思いがけない本との出逢い、楽しさに改めて気づかされます。
ジミー・リャオ(幾米)《私は大町で一冊の本に出逢った》
街のいたるところに図書館
「大町名店街」から本通りを渡った反対側の空き店舗内には、大規模なインスタレーションで知られる栗林隆さんが《第一黒部ダム》を築きます。高さ186メートル、日本一の大きさを誇り、毎秒10トン以上もの豪快な放水を見せる、あの黒部ダムを差し置いて(?)、約1/40スケールに再現した黒部ダムと温泉を組み合わせた作品です。温泉に見立てられた「ダム湖」の水は足湯として利用可能。「世紀の大事業」に浸かりながら、旅の疲れを癒やしましょう。
イベント・パフォーマンスは、先に触れたYAMANBAガールズのプロジェクトに加え、ダンサー・伊藤キムによる神出鬼没のパフォーマンス、菊地成孔をメンバーに加えたジャズビアニスト・山下洋輔のスペシャルカルテットライブ、おおたか静流と照明アーティスト/デザイナー・藤本隆行のコラボレーションによる七倉ダムでのコンサートと、盛りだくさんのラインアップです。
そして芸術祭公式グッズは、ミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明さんが、芸術祭のテーマ「水、木、土、空」をモチーフとしてデザインしました。信濃大町の紡績工場でつくられたTシャツ(3色)は売り切れ必至。手ぬぐい、ポストカードなどの小物もあり、旅の思い出をお土産として持ち帰ることができます。それぞれの日常に戻っても、ときおり滔々と流れる信濃大町の澄んだ水音が聞こえてくる、それが旅の最大のお土産なのかもしれません。
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