イタリア・ローマ出身のジュエリーデザイナー、デルフィナ・デレトレ(Delfina Delettrez)。元々は女優を志しつつ、コスチュームデザインも専攻していた。同時に心理学を学んでいた彼女は、次第に、舞台に立ち演技を通じて表現することに違和感を感じ始めてもいたそうだ。DSMギンザ1周年記念のイベントでは、独特の世界観で女性を魅了する彼女のコレクションを、インスタレーション作品とともに紹介している。ジュエリーの楽しさとアート作品のように繊細でコンセプチュアルな側面が同居する作品が生まれる秘密に迫ってみよう。
――まずは、日本のユーザーにコレクションについてご紹介いただけますか?
それぞれのコレクションにも、作品一つひとつに名前がついています。すべてにコンセプトがあるからなのですが、だからこのようなインスタレーションを通じて、ブランドの世界観を楽しんでもらえる機会が持てたことは、とても嬉しいです。特に、ジュエリーというと、これまでは貴金属、宝石、財産という捉え方だったと思いますが、私はもっと女性にジュエリーを気軽に楽しんでもらいたいと思っているんです。
――作品作りにおいて心に留めていることは?
素材やカラーのコントラスト。ミクロなものとマクロなものを融合させること。そしてジュエリーが女性にとって何かこう、気持ちを揺さぶるというか、刺激的なものであること。かつユーモアがあることも大切な一面ですね。
それから、女性は忙しいでしょ? 持ち運びしやすいとか、仕事中はベルトだったけど、ディナーの時にはネックレスに早変わりなんてアイテムは便利ですよね。
――毎回のコレクションはとてもバラエティーがあってユニーク。かつ一貫したスタイルがありますね。
私は、大きなスタジオみたいなものを持っているわけではなく、職人と試行錯誤しながら、すべての作品は一つひとつ手作りにこだわっています。だからこそ、例えばカエルのリングだって、色も形も同じものは一つとしてありません。
――確かにそうした工程を重ねたジュエリーは、貴金属同様に深い価値のあるものですね。
ジュエリーを選ぶのは、女性にとって服を選ぶのとはまったく違う経験だと思うんです。ジュエリーは、とても小さなパーツにその人のキャラクターが凝縮されて、それを身に着けることによって、キャラクターすべてが表現できる、そんなものだと思っています。
――ユニークなデザインの源は?
実はそれが一番難しい質問ではあるのですが(笑)、言ってみれば「デルフィナタッチ」だと思います。先にも言ったように大工場で作品を作るわけではないから、自ずと作品には一貫した個性が生まれます。でもその時代の空気やニーズ、そして自分がその時に影響を受けたもの、生活すべてから作品が生まれるのです。
――どんなものに興味を引かれるのでしょう?
例えば目玉のリング。よくシュールレアリスムの影響を感じると言われますが、私には(自身の指先を示しながら)、こちらのパールのリングの方がよほどシュールに思えるのです。パールは空間に浮かんでいるような感じで、大きいところから小さいものに移行していくこの造形は、宇宙的でコンセプチュアル。そこには引かれるものがあります。
ジュエリーは、その時の気分を表現するのに最適の手段だから、時には化粧直しをした時に、ジュエリーも着替えるなんてことがよくあります(笑)。
――今回展示されていたコレクションの中に同心円をモチーフに太陽系のように広がるジュエリーがありました。「すごい」というしかありませんでした。
繊細な部分と遊び心を巧みにミックスするということも心掛けていることの一つ。ゲームのようなものかもしれません。平面に置かれていたものが、身につけた瞬間、立体的になって女性を飾る。抜群の存在感もあって、どうなっているんだろう、という不思議な感覚も呼び起こす……。
――元々女優を志していたとか?
映画で女優と衣装のデザインを学んでいました。同時に心理学も。でも女優の勉強を始めた早い段階で、表舞台で演技をするのは自分のスタイルじゃないなと感じたんです。他方、ジュエリーを作り始めたのも全く個人的なこと。そもそもジュエリーが嫌いで、一切着けなかったから、自分が着けるためのものを作ったのがきっかけ。服のように消費されることもなく、新しいものを作らなければ、と自分が摩耗してしまうこともありません。
それに自分がどうしてジュエリーを着けたくないのか、その理由を突き詰めたくて。ジュエリーの制作はとても繊細な作業で、その過程において、自分のアイデンティティーと向き合うというか。だから私が作るジュエリーは、クリーンだけど、すごく強いメッセージがこもっているんだと思います。
vol.3はジョン・ロシャの娘で父と同じくファッションデザイナーとして活躍するシモーネ・ロシャ(Simone Rocha)が登場。