東京南青山・骨董通りの一本裏通り、突き当たりになる路地の奥からコンクリート打ち放しの高い壁に反射する自然光がまぶしい。10月22日にオープンしたブラミンク トーキョー(BLAMINK)は、いまだホームページも設置されていないながら、スタイリストを始めとする多くの洋服好きのSNSのタイムラインで話題を集めている。
2層80坪の店内にはやさしい光が差し込み、ゆったり商品をみせる贅沢な空間は美術館のように細かく計算されている。2階フロアの5メートル近くある天井高と白い梁と鉄の窓枠やスチールとガラスのショーケースが無機的な空間に表情を与える。壁際に置かれたヴィンテージスピーカーから流れるジャンルや時代を超えた音楽は、不思議な時間を描き出す。
ブラミンクはドゥロワー(DRAWER)を立ち上げたデザイナーの吉武味早子(よしたけみさこ)が13年間ディレクターを務めたドゥロワーを退任したことにともない、新たにクリエイティブディレクター、チーフデザイナーしてスタートさせたブランド。ユナイテッドアローズの関連会社として昨年設立されたデザインズ(Designs)が運営し、消費的なファッションと距離を保ちながら「本質的な洋服の価値を純粋に追い求める」ことをテーマに真摯な物作りをコンセプトに掲げている。デビューとなった16-17AW、次の17SSコレクションはこの南青山のフラッグシップショップでのみ販売される。
「表通りから1本入った人通りの少ない路面で、四角くて天井が高い物件」という条件で選ばれたという店舗は、図らずも同じユナイテッドアローズグループ内のクロームハーツの向かい。店舗デザインはワンダーウォールの片山正通が担当した。
1階の床はパリ南部のル・コルビジェの設計によるパリ国際大学都市ブラジル学生会館のオマージュ、階段下のブックコーナーにはエルワース・ケリーやマーク・ロスコのヴィンテージ本が並べられ、2階のソファはポール・ケアホルム(Poul Kjaerholm)のソファPK31とテーブルPK61。スピーカーのJBLパラゴンから流れるのはトーキングヘッズやOMDといった80年代ニューウェーブからエリック・サティなどのクラシック、ジャズまで幅広い。選曲は片山同様、ドゥロワー時代からの付き合いとなる大沢伸一。チリー・ゴンザレス(Chilly Gonzales)によるゲーンズブールの曲にブラミンクのワードが組み込まれたエディットバージョンなど、ブランドのコンセプトに合わせた凝った趣向が潜んでいる。ブックセレクトはpostの中島佑介がサポートしており、吉武自身の趣味が店舗全体に埋め尽くされている。
洋服はそのこだわりが詰まったオリジナルのアイテムを中心に、今秋冬はリバティプリントのベロア、英国のフォックスブラザーズのフランネルのスーツなど英国のテーラーリングを生かしたアイテム、カシミアニットもサーマルのプルオーバーやケーブルニット、高密度コットンのブラウス、キャメルのコート、チノパン、デニムまでオーセンティックなアイテムが“時代の気分でチューニング”。“普遍的なトラディショナルマインドを高揚させる”生地や、シルク、カシミア、モヘアなどの素材を作りの精度にこだわった“クオリティクローズ”が並ぶ。ドレスやテーラーメイドのオーダーメイドサービスも行われている。
バイイングアイテムでは、シャルベ(CHARVET)のシャツ、J&Mデビッドソン(J&M Davidson)のバッグ、フラテッリ ジャコメッティ(F.LLI Giacometti)の靴、バリー(Barrie)のニット、マリー エレーヌ ド タイヤック(Marie Helene de Taillac)のアクセサリー、サイ(Scye)のライダースジャケット、バブアー(Barbour)のオイルドジャケットなどが今秋冬は展開されており、“顔の見える作り手”からセレクトされている
ブランドのルックカードにはルーマニアの彫刻家コンスタンティン ブランクーシのこんなフレーズが引用されている。“ほんとうに現実的なものは、事物の外から見えるかたちではなく、そのなかにひそむ本質である”。
海外のファッショニスタからも評価の高い吉武の審美眼と、日本のサブカルチャーを海外に認めさせた第一世代ともいえるクリエイターたちによる「クール」の本質ともいえる無国籍なラグジュアリー気分。それを伝える“洋服屋”の矜持が、青山の裏通りから静かに発信されている。
Text: 野田達哉