また、オヤジの昔話と言われるかもしれないけど、1980年前後のリアルな話を少し。この時代の日本の“モード”と“ストリート”の関係の話題をWEBメディアであまり見かけないから、アーカイブとして。

最初に体験したファッションショーの記憶は1978年か79年に山本寛斎が京都のディスコ「ゼノン」行ったショーだったと思う。スタイリストのアシスタント兼照明スタッフとして接した。当時、アルバイトとしてお手伝いをしていたスタイリストの北山和可さんに頼まれて、ショーのモデルフィッティングと、本番の照明をお手伝いした。スタイリストも照明も、一般的な職業としては認められていない時代。音響は確かEP-4のタツオ、プロデュースは佐藤薫さんだったのではないだろうか。以前このコラムで書いたデビッド・ボウイが京都に滞在していた時代の話だ。

この日のギャラの代わりに、寛斎のショッキングイエローのナイロンのスラックスとベストタイプのブルゾンをもらった。さらに金色の袴とシルバーのメッシュにピンクのオーガンジーの裏地を付けたノースリーブを渡され、「それを今度のアース・ウインド＆ファイアーのコンサートに着て行ったら、その服と晩ご飯をご馳走してあげる」と和可に言われて、言われるままに着ていった。京都府立体育館で行われたそのコンサートで同級生と遭遇したが、誰一人声はかけてこなかった。その渡された衣装も寛斎だった。京都BALにコムデギャルソンもワイズもメンズビギも入っていたが、とてもじゃないが小遣いで買える価格の服ではなく、文化屋雑貨店の服と古着を着ている時代。デザイナーズブランドの服をもらえたのは嬉しかったが、この時以外に街で着たのはその年に来日したDEVOの公演の時だけだった。

80年代に入り、寛斎が百貨店やホテルなどで行うフロアショーでの選曲のアルバイトを受け、オープンリールのテープでシコシコ制作していた。シンセ音源のジャン・ミッシェル・ジャールばかり要求された時代。

寛斎がその後、行政とコラボして各地で大規模なイベントを行うきっかけとなった1990年の宮崎県高千穂でのショーは、編集者として取材で大勢のプレスと共に参加した。その後、このイベントはロシアやインドで行われた「ハロー!!」シリーズとして発展し、山本寛斎自身はイベントプロデューサーの仕事が中心になった。

自分自身のファッションの仕事のキャリアにとって、山本寛斎は非常に近しい存在で三宅一生、川久保玲、山本耀司などより、ずっとポップな存在だ。60年代をおぼろ気な記憶で知り、70年代にサブカルチャーの産湯を浸かり、80年代にファッションと音楽で騒いだ世代にとっては、90年から00年代は残念ながら、「Kansai」というブランドは空白に近い。このサイトを運営している若い編集スタッフもKansaiというブランドネームを聞いてもあまりピンと来ないのが正直なところだろう。

その山本寛斎がロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館（V&A）で11月1日、42年ぶりにキャットウォークショーを開催した。デビューの地での復活だ。

80年代を迎える前の日本のあのザワザワした感じが伝わってくる楽しいコレクション。もやもやした2010年代を吹き飛ばす勢いが、その"元気”から伝わってくる。そのオルタナティブなパワーを見抜いたのは、図らずもTOKYOではなくロンドンだった。いずれにしても、山本寛斎のグローバルなファッションシーンでの復活を心からお祝いしたい。