その後、ファシリテーターの菅付氏はファッション写真の歴史を紹介。白バックが多くシンプルで明解、動きのある写真が特徴とし、レスリー・キーも強く影響を受けるリチャード・アヴェドン。格調高い作風で「ファッション写真を芸術にした」と言われたアーヴィング・ペン。
ファッション写真にセックスを持ち込んだフェティッシュな作風のヘルムート・ニュートン。ゲイのセンシュアルな作風で80年代にカルバン・クラインやラルフ・ローレンのキャンペーン写真を撮り、最近ではアバクロンビー&フィッチを手掛けるブルース・ウェーバー。自身を“ファッションマシーン”と捉え「自分に作家性はない」と断言、変幻自在に作風を変え続け、イタリア『ヴォーグ』の表紙を20年以上毎号撮り続けているスティーブン・マイゼル。
たくさんの写真を合成して幻想的な世界観を作り上げる“作為性の極み”であるニック・ナイト。それとは対称的にコンパクトカメラでスナップ的な写真を撮り、マーク・ジェイコブスのキャンペーン写真を10数年撮り続けているヨーガン・テラー。セクシャルにふざけたノリで被写体との距離感を写し、シュプリームやヴァレンティノなどのキャンペーン写真を手掛けるテリー・リチャードソン。10人以上の社員レタッチャーやライティングマンを抱え、過去の写真を徹底的に研究して計算に計算を重ねた完璧主義的な写真でプラダやブルガリのキャンペーン写真を手掛けるマート&マーカスといったファッション写真家達について解説した。
“おいしい仕事”は大御所達が独占しており、若手に仕事が回って来ない現状。スター達の写真をフォローするだけではその壁を突破できない中、日本の写真家はどうしたらいいのか?という話題に対し、「第一線で活躍している写真家は非常に学習能力が高く、過去の写真をものすごく勉強している。けれども、撮る時にはその蓄積を1回忘れたもののように撮ることで新しい表現が生まれる。作家性の強い写真家は自分なりの作法だけでやろうとしがちだが、全く無知だとグリップできないので勉強することは大事」と菅付氏はメッセージ。
国内外の新しい作家を見出す役割を担い、9人の新進日本人写真家によるパリでの展覧会「TOKYO 2020」を企画している太田氏は、「日本だけの枠で考えない方がいい。海外のアートフェアに出展したりZINEをつくったりと、情報交換しながら海外のマーケットに目を向ける若いフォトグラファー達の動きは頼もしい。写真家としてサバイブするなら既存の枠組みを飛び越えること。それによって見たことのない写真が現れるのが楽しみ」とコメント。
中島氏は「アーティストだからと言って世界観を押し付けるわけではなく、編集者的な目線を持った人を望む。自分としてもどれだけの物語が提供できるのか、アイデアが尽きてしまうのが怖いので、一緒にストーリーを考えてくれる人が強い。アイデアを出すだけではなく実現能力の高い人がこれから重宝されるのでは。また、今の気分が分かっている人が求められる。時代感がある限り、新しい写真家が生まれるのでは」と締めくくった。