昨年11月に来日し、東京公演にはアンダーカバー(UNDERCOVER)高橋盾の姿もあった伝説的なポストパンクバンドのポップグループやマッシブアタック、ポーティスヘッドなど、英国音楽ファンにとってブリストルという都市は80年代から90年代にかけてテクノロジーを融合させたレゲエ、ダブ、ヒップホップの発火点となる発信地として知られている。
そのブリストルの街灯を使った“ダブライト”が東京・虎ノ門ヒルズの2階エントランス、オーバル広場に3月21日まで展示公開されている。最先端テクノロジーをアートと融合させた都市実験イベント「メディア アンビション トーキョー2016」で招聘された海外アーティスト、カナダ出身のジョナサン・チョムコと英国出身マシュー・ロジアのデザインデュオ、チョムコ&ロジア(Chomko & Rosia)による作品「シャドウイング(Shadowing)」だ。
街灯に照らされて映る人影。しかし、人が歩いていなくてもその影が現れ、去っていく。街灯が、先にその下を歩いた人の姿を記憶しており、時間差で影が映るというインスタレーションで、次にそこを通る人のために影を残していく仕組み。音楽のエコー、ディレイなどの映像版で、個別の音を反復、増幅させるレゲエのダブサウンドの成り立ちが重なる。
ブリストルを拠点とするメディアセンター、ウォーターシェッド(Watershed)による「2014年プレイアブル・シティ・アワード(Playable City Awar)」の最優秀作品賞を受賞、2015年にはヨーク市の「イルミネイティング・ヨーク2015フェスティバル(Illminating York2015 )」で展示し、セバスチャン・コンランによりデザイン・オブ・ザ・イヤー2015にノミネート。現在ロンドンのデザインミュージアムに展示されている。
「時間は違っても、同じ場所を歩いた人と出会えるというものを作りたいと思ったのが、この作品のきっかけ」とチョムコ。「都市はいろんな人で成り立っている。テクノロジーを使って知らない人とコミュニケーションを取る方法をずっと考えていた」とロジアが今回の作品の目的を話す。都市の街灯のハッキングのようなアイデアだが、「将来的に未来から来た街灯のような存在で、広告利用などを含め、実用化されていろいろな都市に置かれれば嬉しい」とチョムコは話す。
2人は2013年にベネトングループのコミュニケーションリサーチセンターで出会い、チョムコがインタラクションデザイン、ロジアが建築を学んだ背景を持つ。
「メディアアートの世界では坂本龍一やライゾマティクスの活動はよく知られており、日本のテクノロジーはすべてクオリティーが高く、僕らのような実験的な作品を持ってくることは少しドキドキしている」とチョムコ。
「日本の伝統的な文化の中に、新しいテクノロジーでイノベーティブなことを起こせれば面白いんだけれど」とロジア。2人が話す横で、塾帰りの小学生が作品の街灯が映し出すサークルをのぞき込んで、追いつかない影と一緒にいつまでもクルクル回っていた。
【イベント情報】
MEDIA AMBITION TOKYO 2016
■虎ノ門ヒルズ会場
虎ノ門ヒルズ2階エントランス、オーバル広場
住所:東京都港区虎ノ門1-23
<展示>
会期:2月26日から3月21日
時間:日没~23時
入場料:無料
Text: 野田達哉