あなたがその洋服を手にするまで、一体幾人の手を渡ってきたのか考えてみたことがあるだろうか。今回は、幾つもの場所、幾人もの手を渡って生まれてくるファッションが生まれる、ある一つの場所を紹介したい。
日本有数の織物の産地、群馬県桐生市。その桐生で「ニードルパンチ」という技法で、ファッションに携わるTex. Boxの澤利一さんをリトゥンアフターワーズのデザイナー山縣良和さんが訪ねた。2人が最初に物づくりに取組んだのは2012年のこと。七福神をテーマに人々の想像を越える壮大なパワーでファッションを表現したリトゥンアフターワーズ13年春夏コレクションに登場するルックで「畳にニードルパンチで洋服を打ち付けて欲しい」と山縣さんが澤さんに依頼したのが最初だという。
当時を振り返って澤さんは「畳に服を打ち付けるなんて馬鹿じゃないの(笑)と思ったけど、やってみると楽しかったね。そういう無限にある素材の組み合わせを発見させてくれるデザイナーとのコミュニケーションが楽しくて、長年ニードルパンチをやっていても飽きないよ」と顔をほころばせる。
ニードルパンチは、剣山状の針を高速で幾度も突き刺すことで繊維を絡ませ柄を描き出していく技法
生地の上に柄となる素材を配置し、剣山状の無数の針を高速で幾度も突き刺すことで繊維を絡ませ柄を描き出していくニードルパンチ。その魅力を澤さんに尋ねると「“織り”か“編み”に大別される生地の中で、ニードルパンチはそのどちらでもない技法。そこに可能性を感じました。織りと編みの融合だって出来るし、柄を作ることにおいてなんの制約もない。これは織りや編みでは、まずおきないことなんです」とまっすぐな眼差しで語る。
一方、山縣さんはデザイナーの視点から「ニードルパンチには、フリーペインティングに近い感覚があって、その感覚が自分にも合いそうだなと思っています。その場で布にあてた図柄が、そのままニードルパンチされて出来上がってくるのも魅力的」と答える。
「ニードルパンチにはフリーペインティングのような感覚がある」と山縣さん
実は、山縣さんが澤さんの工房を訪ねた日には、ちょっとしたアクシデントがあった。数メートルあるシルクの布に1センチ角のものから手のひらくらいのサイズまで、色とりどりの無数の布切れをレイアウトしたものが山縣さんのアトリエから、澤さんの工房に到着していた。その布を巻き取って、いざニードルパンチの機械で加工をしようとしたその時、その布がほどけ、シルクの布にレイアウトしてあった無数の端切れが全て床に落ちてしまったのだ。
ニードルパンチをしようとした時、レイアウトしてあった無数の端切れが床に落ちてしまうアクシデントが
まるで花吹雪のように散り散りになる端切れを、山縣さんがスマホに納めてあったレイアウト時の画像を元に、その場で並べ直さなくてはいけなくなってしまったのだ。それでも、澤さん夫妻と山縣さんでもう一度端切れを約1時間かけて並べなおし、再びニードルパンチの加工を経てテキスタイルが完成するという出来事があった。
山縣さんは「今日の作業のように、布地に端切れを並べていく作業は、絵を書くときの感覚やコラージュなどのアートワークをしている時の感覚に近いですね。手を動かしながら、イメージが広がっていく感覚です」とその作業を振り返る。
仕上がった生地を見つめる2人。そこにはスワッチ(生地の見本帳)をイメージしてレイアウトされた端切れがニードルパンチの加工を通じて地の布と一体化した姿があった。ただ、1万本もの針で無数に打ち付けられたこともあり、並べた時との状態そのものではなく、色味がやわらかくなったり、また柄のシルエットが少し流れて変わったりと、様々な表情を見せている。目の前で新しい表情が生まれていく“ライブ感”こそ、ニードルパンチらしさであり、長年向き合っても飽きないと澤さんが魅了される理由の一つなのかもしれない。
仕上がった生地を見つめる澤さんと山縣さん
「たまにね、作り手にしかわからないような“遊び”を入れるんだよ」と澤さんはいたずらに笑う。「紐をまっすぐにという仕様書でも、ちょっとだけくるっと丸めてみたりね。それに、こうやってサンプルを作っている時期が楽しくてね。デザイナーとのキャッチボールが出来るから。いつまで経っても初心者の気持ちでこの仕事に向き合いたい。だから、若葉マークを貼ってるんだよ」。という澤さんの言葉に、ニードルパンチの機械に目を向けると、確かに車の“若葉マーク”が。澤さんがワクワクしながら、ニードルパンチを手掛けていることが伝わってくるエピソードだった。
後半は「それぞれの視点で見る日本のファッション、そして世界のファッション」について
日本有数の織物の産地、群馬県桐生市。その桐生で「ニードルパンチ」という技法で、ファッションに携わるTex. Boxの澤利一さんをリトゥンアフターワーズのデザイナー山縣良和さんが訪ねた。2人が最初に物づくりに取組んだのは2012年のこと。七福神をテーマに人々の想像を越える壮大なパワーでファッションを表現したリトゥンアフターワーズ13年春夏コレクションに登場するルックで「畳にニードルパンチで洋服を打ち付けて欲しい」と山縣さんが澤さんに依頼したのが最初だという。
当時を振り返って澤さんは「畳に服を打ち付けるなんて馬鹿じゃないの(笑)と思ったけど、やってみると楽しかったね。そういう無限にある素材の組み合わせを発見させてくれるデザイナーとのコミュニケーションが楽しくて、長年ニードルパンチをやっていても飽きないよ」と顔をほころばせる。
ニードルパンチは、剣山状の針を高速で幾度も突き刺すことで繊維を絡ませ柄を描き出していく技法
生地の上に柄となる素材を配置し、剣山状の無数の針を高速で幾度も突き刺すことで繊維を絡ませ柄を描き出していくニードルパンチ。その魅力を澤さんに尋ねると「“織り”か“編み”に大別される生地の中で、ニードルパンチはそのどちらでもない技法。そこに可能性を感じました。織りと編みの融合だって出来るし、柄を作ることにおいてなんの制約もない。これは織りや編みでは、まずおきないことなんです」とまっすぐな眼差しで語る。
一方、山縣さんはデザイナーの視点から「ニードルパンチには、フリーペインティングに近い感覚があって、その感覚が自分にも合いそうだなと思っています。その場で布にあてた図柄が、そのままニードルパンチされて出来上がってくるのも魅力的」と答える。
「ニードルパンチにはフリーペインティングのような感覚がある」と山縣さん
実は、山縣さんが澤さんの工房を訪ねた日には、ちょっとしたアクシデントがあった。数メートルあるシルクの布に1センチ角のものから手のひらくらいのサイズまで、色とりどりの無数の布切れをレイアウトしたものが山縣さんのアトリエから、澤さんの工房に到着していた。その布を巻き取って、いざニードルパンチの機械で加工をしようとしたその時、その布がほどけ、シルクの布にレイアウトしてあった無数の端切れが全て床に落ちてしまったのだ。
ニードルパンチをしようとした時、レイアウトしてあった無数の端切れが床に落ちてしまうアクシデントが
まるで花吹雪のように散り散りになる端切れを、山縣さんがスマホに納めてあったレイアウト時の画像を元に、その場で並べ直さなくてはいけなくなってしまったのだ。それでも、澤さん夫妻と山縣さんでもう一度端切れを約1時間かけて並べなおし、再びニードルパンチの加工を経てテキスタイルが完成するという出来事があった。
山縣さんは「今日の作業のように、布地に端切れを並べていく作業は、絵を書くときの感覚やコラージュなどのアートワークをしている時の感覚に近いですね。手を動かしながら、イメージが広がっていく感覚です」とその作業を振り返る。
仕上がった生地を見つめる2人。そこにはスワッチ(生地の見本帳)をイメージしてレイアウトされた端切れがニードルパンチの加工を通じて地の布と一体化した姿があった。ただ、1万本もの針で無数に打ち付けられたこともあり、並べた時との状態そのものではなく、色味がやわらかくなったり、また柄のシルエットが少し流れて変わったりと、様々な表情を見せている。目の前で新しい表情が生まれていく“ライブ感”こそ、ニードルパンチらしさであり、長年向き合っても飽きないと澤さんが魅了される理由の一つなのかもしれない。
仕上がった生地を見つめる澤さんと山縣さん
「たまにね、作り手にしかわからないような“遊び”を入れるんだよ」と澤さんはいたずらに笑う。「紐をまっすぐにという仕様書でも、ちょっとだけくるっと丸めてみたりね。それに、こうやってサンプルを作っている時期が楽しくてね。デザイナーとのキャッチボールが出来るから。いつまで経っても初心者の気持ちでこの仕事に向き合いたい。だから、若葉マークを貼ってるんだよ」。という澤さんの言葉に、ニードルパンチの機械に目を向けると、確かに車の“若葉マーク”が。澤さんがワクワクしながら、ニードルパンチを手掛けていることが伝わってくるエピソードだった。
後半は「それぞれの視点で見る日本のファッション、そして世界のファッション」について