東京を発ち、ハワイ島西海岸の街・コナに到着するまで15時間。長い距離を移動した時、独特の重みが体に宿る。このまま眠りにつきたい気持ちに、宿のホストがすすめてくれたレストランへの好奇心がまさり、車で10分ほどのところにある「マナゴレストラン」に向ってみることに。
国道に面したこの店は、古くからこの土地でマナゴファミリーが営むレトロな雰囲気のホテル内にあるレストランだ。100年近い年月、この場所で年を重ねてきた木造の建物に足を踏み入れると、時計の針を一気に過去に巻き戻したような感覚になる。
高い天井ではファンが弧を描き、白熱灯があたたかく人々を照らす。食卓に飾られた一輪の花の後ろには、宵のはじまりに染まる空が広がる窓。
壁にかけられたメニューから名物だというポークチョップをオーダーすると、間もなくワゴンでどんぶり一杯のごはんとお皿3枚運ばれてきた。皿にはポテトサラダ、豆腐の煮物、煮豆がのっている。なんとも日本らしいメニューながらも、全部平皿に盛られているあたりが、ここが異国の地なのだと思わせる。
その場の空気に少し慣れた頃、周りを見渡すと日本人と思える人が客席の半数を占めており、家族で食卓を囲んでいる様子。今日は土曜日なのだ。ただ、話しているのは英語で、その表情や身なりは日本のそれとは違い、別の文化の香りを感じさせるものだ。よく焼けた肌、足元のビーチサンダル…。とてもよく似ているのに、どこか違う。
旅先で感じる「どこか遠い場所にきた」という気持ちの高鳴りと、少しの不安が入り混じった思い。昨日までは知らなかった場所に身を置くと、体内の感覚が研ぎすまされていく気がする。
音、光、匂い、人々の仕草や笑顔。東京で日々を送る中では目にも止めなかったことが、鮮明に刻まれていく。これが旅の記憶がいつまでも色鮮やかな理由だろうか。そんな思いに、今夜の夕食が運ばれてきた。
昔、日本から海を渡って島での暮らしを開拓した人々が守り続けてきたマナゴホテルのレストラン。日本に似ているけれど、どこか違う場所。同じルーツを持ちながらも、歴史の中の分岐点を経てそれぞれの文化を築いてきたのだろう。
約6,000kmの海を越えたこの島で懐かしさを覚えるとともに、日本とハワイを確かに繋ぐ絆がこの場所にあるということ。この夜の食卓が教えてくれた。
さあ、ここを出たら宿のベッドで深い眠りにつこう。明日も、まだ見ぬ出会いが待っている。