陶器がこんなに優しいものだったなんて――思わず手で包み込みたくなるアスティエ・ド・ヴィラット(Astier de Villatte)のテーブルウェア。同ブランドは、12月1 日まで伊勢丹新宿店本館3階でポップアップイベント「Voyage a Tokyo ASTIER de VILLATTE」を開催中だ。
パリのエコール・デ・ボザール(パリ国立美術高等学校)で出会ったブノワ・アスティエ・ヴィラットとイヴァン・ペリコーリの2人が、陶器のデザイン、生産・販売からスタートさせた同ブランドは、いまやテーブルウェアに留まらず、家具、キャンドル、インセンス、ステーショナリーなどに及ぶ。
その魅力は、白の陶器に代表されるオブジェのような美しい形とアンティークな風合い、そして一点ごとに微妙に違う表情だ。「Made in Paris」にこだわる彼らは、パリの工房でパリ郊外の黒土を使い、伝統的な手法によって全てのアイテムを手作業で作っているという。
今回のポップアップイベントでは「Japan」をテーマにした伊勢丹新宿店限定商品を発表。徳利やお猪口、和皿や箸置き、急須など、和をモチーフにした食器が並ぶ。
パリにこだわる彼らと日本のつながりとは?来日中のデザイナー、ブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット氏に訊ねると、そこには意外な物語があった。
―― アスティエの陶器といえば白いアンティークな風合いですが、その「白」へのこだわりはどこから来ているのでしょうか?
僕はパリの美術学校で、多くの絵画や彫刻などの美術品を見ては模写し、どのような技法で描かれているのか学びました。昔からある作品から、多くの表現や技法を学んだのです。アスティエをはじめる時、陶器においても絵画における模写のように、伝統的な手法で一点ずつ作品を仕上げることにしました。その結果、アンティークのような風合いが出るのでしょう。
ただ、もともと白の陶器にこだわっていた訳ではありませんでした。この「白」との出会いはアクシデントと言ってもいいでしょう。ブランドをはじめたばかりの頃は、美しいオブジェを創作してメゾン・エ・オブジェ(パリのインテリア見本市)に出展したりしていました。その時に、「普段使いが出来る作品」を作りたいと思い、試行錯誤した結果手がけたのがテーブルウェアでした。そのために、何かシンプルな方法はないかと考えて思いついたのが白い釉薬を使うことでした。実際に白い陶器を作ってみると意外にいい具合になったという、まったく偶然のインスピレーションでした(笑)!
――「Japan」をテーマにした作品では、日本の徳利やお猪口もありましたね。今回はどんな所からインスピレーションが湧いたのでしょうか?
実は徳利については知らなかったんです(笑)。「何か日本に関するものを作ってみませんか」と伊勢丹から話をもらったときに、まったく自由な発想で思いついたのが今回のシリーズなんです。アスティエのコレクションを制作する時は、じっくり考える時間を持つことも多いのだけれど、今回は最初に“日本の料理に何を使うのか”を考え、そこから徳利、お猪口、箸置き…と思うがままに制作を進めることができました。実は、徳利については面白いエピソードがあって、フランスの古い風習では、ベッドサイドに水を入れた小さなボトルを置いて寝るのですが、徳利がそのボトルにそっくりで後でビックリしたんですよ。
そして、Japanシリーズの箸置きは、自分でも手元において使いたいと思う程、特に気に入ってます。
―― アスティエのインセンスが日本の淡路島でつくられていると知って驚きました。その経緯は?
もともとお香を日本のメーカーと作りたいと交渉していたけれど、なかなかいいパートナーに出会えなくって。そんな時、偶然ニューヨークの展示会で出会ったのが淡路島のお香メーカーのものだったんです。フランス語も通じない、日本語しか話せないというのでなんとか通訳できる人を見つけて話をしてみると、僕らとの取り組みにとても前向きになってくれて。実際に淡路島にも行ってみたけれど、お香が伝統的な手法で作られていて品質もよい。ただ、日本の伝統的なお香制作過程に、フランスで調香したエッセンシャルオイルを配合するのには苦労したけれど、彼らが前向きなソリューションを提案してくれて、昔ながらのものと現代的なものをミックスして新しいものを作ることができました。このスタイルこそ、僕たちらしいスタイルだと思います。
―― 画家バルテュスの夫人、節子さんとも作品を生み出されています。猫のティーポットやインセンスバーナーなど「Setsukoコレクション」も今回展示・販売されていますが、アスティエは日本との関わりも深いのでしょうか?
僕自身は、学生時代に渋谷のパルコギャラリーでの作品展示のために来日してから、もう15回程日本に来ています。節子夫人とは、両親がローマのヴィラ・メディチで知り合いだった縁で出会ったのですが、バルテュス氏が大の猫好きだったことから、猫をモチーフにした作品も制作しました。ティーポットは形が決まるまで、彫刻作品を作るかのように時間をかけた作品です。前足からお茶が出るというユニークな仕掛けながら、猫が真面目な顔をしているところが僕は大好きなんです。
―― アスティエはすでに確固たる世界観を生み出していますが、今後はどのようにブランドを続けていきたいと考えていますか?
思いつくまま、自由な発想で展開してきたブランドだからこそ、これからもそのスタイルを続けたいと思っています。偶然の産物だからこそ、面白くて素晴らしいものが生まれる。そんな偶然をこれからも大事にしていきたいと思っています。
【プロフィール】
アスティエ・ド・ヴィラット
1996年に設立。蚤の市で見つけたアンティークや街で拾ったものなどからインスピレーションを受けオブジェを制作。陶器のテーブルウェアを始め、キャンドルやお香なども手がけ、2000年パリ中心部のサントノーレ通り173番地に「アスティエ・ド・ヴィラット」を開店。
ブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット(デザイナー)
ローマ出身。エコール・デ・ボザール(パリ国立美術高等学校)で絵画や彫刻などを学ぶ。好きな日本の風景は、学生時代に来日した際に飛行機から見た富士山と、自然と街が調和した奈良の風景なのだとか。