不在を象り、知覚に訴えかける英国人アーティストオリバー・ビアの日本初個展【レポート】

2015.11.27

2015年大和日英基金アートプライズを受賞したオリバー・ビア(Oliver Beer)の日個展ギャラリー青山目黒、ASAKUSAの2箇所で開催中だ。

大和日英基金アートプライズは、英国アーティスト東京のギャラリーで初めての個展を開催するチャンスを与えるもの。800名を超える応募の中から選ばれたビアは、1985年イギリス・ケント生まれ、パリ及び英国ケント在住のアーティスト。作曲と美術の両方の学位をもち、建築空間と人間の声の共鳴を試みるプロジェクトが、パレ・ド・トーキョーやポンピ ドゥーセンター、MoMA PS1で紹介されるなど、近年高い注目を集めている。国内では、エルメス財団により行われ た「コンダンサシオン」展(2014年)に参加した。

青山|目黒では、5点の作品が展示されていた。そのどれもがシンプルなのに見飽きない。

インドウ近くに並べられた球体ガラスは、重ねられた白い紙の上に重しのように乗せられ、駒沢通りの様子をクリアにそして真逆に映し出していた。その球体ガラスの中に閉じ込められた金色の小さなオブジェは、脊椎動物の中耳内にあり、鼓膜振動の増幅の役割をする微小な骨、耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)を原寸大でそれぞれかたどったものだという。また会場の外からこの球体を眺めると、会場内の壁に描かれたそのままでは何かわからない絵が像をもって目の前に現れる。球体に映し出される現実に見入る体験が、《Silence is Golden》(=沈黙は金)という作品タイトルを体現させられているようで、かつその視界の中にひっそりと閉じ込められた耳小骨が存在するというユーモアが小気味好い。

そして、ウィンブルドン決勝戦のテレビ放送を編集した新作《Life, Death and Tennis》では、ビアはテニスのボールとボールの音を映像から無くした。英国人男性として77年ぶりにウィンブルドン決勝戦を制したアンディ・マレーの白熱した試合に観客たちは手に汗を握り様々な熱狂的な歓声を上げる。彼らが見つめるボールとボールの音が消失した作品は、不在となったものの存在の痕跡を見つめさせ、その作品タイトルを考えさせられる。

また、壁に展示されていた《This is a Churchwarden Pipe》は、立体的に裁断されたパイプが壁に埋め込まれたものだった。マグリットの《これはパイプではない》を示唆しながら、パイプの機能を排した実物の断面を私たちに見せながら“これはパイプだ”と語ることで、我々に新たな「イメージの裏切り」を体験させる。

10月にオープンしたスペースASAKUSAでの展示は、12月6日まで。視覚と聴覚のはざまに展開するオリバー・ビアの初個展に是非、足を運んで欲しい。

展覧会情報】
オリバー・ビア「Life, Death and Tennis」
会場:青山 | 目黒
会期:11月7日~11月28日(日月祝閉館)
時間12:00~19:00

オリバー・ビア「Deconstructing Sound」
会場:ASAKUSA
会期:11月8日~12月6日(土日月祝のみ開館、平日予約可))
時間:12:00~19:00
オカモトサヤカ
  • Silence is Golden : Alto-Stapes-Right, 2013, Lead crystal, 24 carat gold, 直径13cm
  • Life, Death and Tennis, 2015, Video, loop. Courtesy Galerie Thaddaeus Ropac, Paris / Salzbourg
  • Composition for two Pianos and an Empty Concert Hall, 2011
  • Reanimation 1 (Snow White), 2014 16mm Film, 2min57
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