会田誠さんと言えば、大量の女の子がミキサーに入ってつぶされている、「ジューサーミキサー」という作品が個人的には印象的で、今回はその作品が高橋コレクションの一部だと知って、なんだか勝手に納得してしまいました。大規模な個展では、作品の所有者を観るのも楽しみの一つです。
今回発表された大きな屏風(びょうぶ)の新作、「電信柱、カラス、その他」では、カラスがセーラー服やちぎれた体の一部をくわえていました。誰が所有することになるのか、楽しみです。私にとって会田さんのシグネチャー的な作品は、これらの強烈なモチーフが精密にとても奇麗に、ロマンチックに描かれている作品達です。
2001年の横浜トリエンナーレでは会田さんへインタビューする機会がありました。政治学を勉強する学生で、フェミニズムに傾いていた未熟な当時の私は、「ジューサーミキサー」を観て、「さばさばとして、素敵な人がこんな強烈なものを描いてしまうのね」と、少しチグハグな気持ちを抱いた記憶があります。
この年のトリエンナーレでは、日航ジャンボ機が墜落した御巣鷹山に言及した俳句が、会田さんの展示ブースの壁に描かれていましたが、トリエンナーレのスポンサー関係からか、あるいは別の配慮からか、公開前に塗りつぶされているのを目撃しました。
腕や足の無い女の子にチェーンを付けて犬のように描く「犬」シリーズ、戦争をテーマにした「戦争画RETURNS」のシリーズもそうですが、会田さんの作品には、内容を超えて”ひりひりする”ほどの”ギリギリ感”を常に感じます。センシティブなトピックに踏み込む姿勢に心がときめいてしまうのは私だけではないはずです。これこそ老若男女、万国共通のハンサムの要件ではないでしょうか(笑)。
今回の展示のハイライトは、「美術と哲学 #2」という作品のように思います。アメリカ人、ドイツ人、フランス人のアーティストのステレオタイプを演じた会田さんの映像作品です。欧米中心のアートの枠組みを、皮肉を込めて指摘する会田さんのこの作品を前に座り込んで、1人笑いながら長居してしまいました。ハンサムなヒロイズムを感じさせてくれる会田さんに、少しだけ、日本の明るい未来を予感しました。