デジタル、WEB、スマートホンなどの普及に従って、変化が急に見えるデザインだが、果たしてそうなのだろうか?カメラのデザインはフィルムの頃から変わっていないし、アップルウォッチも旧態依然とした時計の形。デザインは進化を止めたのか?「ダーウィンが怒るよ」とニコラは笑う。20年以上東京でデザインオフィスを構え、日本語でインタビューに答えるグエナエル・ニコラ。日本人が気づいていない日本のシステムの先進性について話す。ロングインタビュー最終章。
――地震も多い日本になぜ25年も?
なぜだろうね?(笑) この小さな島国で約1億3000万人が暮らすためには。無駄を省いて、システマティックに運用しなければ社会は回らない。それはすごく先進的です。実は外国はあまり日本のことを分かっていない。ゴミの分別やリサイクルの方法や、エネルギー循環の問題もずっと昔から考えられて、日本という国が回っていることを海外の国は知らない。プリウスが発売されたのは18年前。すでに第4世代のプリウスが準備されていています。街の開発もすべてシステマティックに進んでいる。丸の内のエリア開発にしても15年前、もっと前から計画され、さらに今から15年後、30年後のことを見据えて進んでいる。今、建てているビルも30年後に壊して、次はどこに移転するという青写真のもと、計画が進んでいる。先日開通した首都高の環状C2にしても50年以上前から計画されていたことなのでしょう。ということは次の50年後のプランが既にあるということです。誰かが計画をして予定通り進んでいる。明日のことが、今決められているのではないのです。新しい車社会の準備もできているけれど、日本の技術は発表の時期を待っている段階。日本はプログラムソサエティという感じ。
――デザイン的にはどうでしょうか?
都市計画や技術の先進性に比べて、デザインの分野は遅い。うちの事務所にも言えることですが、これだけの技術と社会的な背景を持っていながら、今すでに世間にある技術を見てデザインをしている。私の目指すデザインはそうではなないのです。日本にはこれだけすばらしいバックグラウンドがあるんだから、それを使って新しいデザインをしたい。しかしながら、今はすべて待っている状態です。
――日本の未来は明るいとお考えでしょうか?
基本的に東京はオペレーティングシステム(OS)。コンピューターと同じでバージョンアップしていける。その仕組みは怖いと思うかもしれないけれど、それは無駄を省いた理想的なダイナミズムを持ったシステムだと思います。東京は政治とは関係なく、社会がしっかりしており、企業や人のレイヤーがちゃんとある。コアがしっかりしているので大丈夫です。変化に対して柔軟に対応できる。ヨーロッパは変化するものと変化しない物、静と動がセパレートしており、各国の文化がどんどんミックスし、コアが見えなくなっている。ひとつのシステムでの柔軟な対応が難しい。その点、日本はすごく未来的だと言えます。すごくシステマティックです。
――近代以降、効率を求めることで発展した国ということもあるでしょうね?
コンビニエンスストアに代表されるようにすべてシステムで運営されて、いろんなファンクションが集まって、街に店がなくなりつつあります。でもこれからは、コンビエンスストアのシステムが街に出て行く。コンビニのシステムを使ったストリートが形成されていくのではないでしょうか。電気や電話や銀行などのインフラもそのシステムで運営され、三菱の電気自動車が走り、三菱のマンション、三菱の銀行など企業グループがシステマティックに街を形成していくのが未来的な東京の構図でしょうね。それによって、昔の商店街の形が再形成されるかもしれない。それは非常に効率的です。東京の問題は土地の値段が高いことと、車のトラフィックの問題。それを解決するアイデアも私にはすでにあるので、その種をどこで発表するか模索中です。
――車のデザインもしているのですか?
今、未来の東京のショートムービーを作りたいので、車もデザインしています。
止まっているリアルワールド
――新しいデザインとは何でしょうか?
現代はすべてREデザインの時代で、昔の物の焼き直しがほとんど。新しいことが分からないからリユースしているだけで、それは止まっているということです。ダーウィンが怒りますよ。いらない物は捨ててしまって次に行かなければならない。レットイットゴー。デジタルカメラの技術はすごく進化しているけれど、みんな形はライカ。私はニュータイプを生み出したい。国の文化の違いによって箸やフォークが生まれたけれど、すべてがオープンな時代になった今、私は固有の文化を超えたものを生み出したい。1930年代のアールデコのデザインを見ても、あの時代に変えなければならなかったから、あのデザインが生まれたんです。新しいといっても美的価値だけじゃなくて人間の生活を変えてしまうデザインが必要。
――それはデジタルが人間の生活に深く入り込んだ社会に変化したから、それに対応したデザインが必要と言うことですか?
デジタルは人の時間を奪っている気がします。以前にはなかったデジタルに関わることで取られる時間が一人の時間を取っている。それによってできないことが増えている。社会のデジタル化が人の生活にプラスかマイナスのヴァリューは、まだ結果が出ていないと思います。本を読むには勉強のためとか、リラックスするためとか理由があるのだけれど、今はどんどん情報が入ってきて。その入ってくる情報を飲み込んで、咀嚼して消化する時間がない、ひとつのニュースを読んだら、次のニュースがもう届いているという状況。みんな情報を消化できず、現実がバーチャルの世界にシフトして、リアルワールドは止まっているように見えます。
――現実の世界は止まってしまっている?
バーチャルはすごく変化しているように感じるけれど、実は何も変化していない。フェイスブックで友達がいっぱいいるように感じるけれど、実はそんなに友達はいない。友達を作るのには一緒に遊びに行ったり、すごく努力がいるけれど、バーチャルな世界はコンビニエントなだけで実態がない。何を食べたのか? 何を見たのか? 何か知らないけど、なんか食べましたって感じです。以前は必要だった生活における努力をすべて失ってしまっています。それはすごく怖いことだと思います。デジタルの進化により時間だけは短縮されているのです。探している物がすぐに見つかるのですが、でも本当に探している物は見つからなくなっています。結果はすぐに表示されますが、そのプロセスは表示されない。クリエイターにとってはグッドデザインが次々に見つかるけれど、自分が何を望んでいるのかを探すのは難しい。コピーペーストの編集の世界になってきています。私の仕事は、みんながコピーしたくなる、真似したくなるデザインをすることだと考えています。
■interview & text:野田達哉
--インタビュー「グエナエル・ニコラに聞く、日本のデザインの未来」を最初から読む。