東京をベースに拡張するデザイナー、グエナエル・ニコラに聞く、日本のデザインの未来【Interview】1/4

2015.07.18

90年代後半に「ジャンポール・ゴルチエ」の香水や、「イッセイ ミヤケ」の香水「ルフードイッセイ」や「プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケ」の店舗デザインなどをスタートに、最近は「ルイ・ヴィトン」、「フェンディ」、「ベルルッティ」などのラグジュアリーブランド、さらにはユニクロ銀座店や新宿メガストアなどの店舗デザインを手がけてきたフランスデザイナー、グエナエル・ニコラが日を拠点に活動しているデザイナーだということは、あまり知られていない。その彼が日本に拠点を構えて25年目となる今年5月、スペイン・バルセロナのロフトパブリケーションからモノグラフ『キュリオシティ・エッセンス(CURIOSITY ESSENCE)』を出版した。代官山蔦屋書店で行われた出版記念パーティーでは本と同名の手吹きのガラスボトルのオリジナル香水も発表された。

来年秋開業予定の松坂屋銀座店跡地の新商業施設「銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業」の内装デザイン、年内にはフェンディのローマ本店の改装、ドバイの高級レストランパリでのエキジビション出展など、多忙をきわめる中でのインタビュー。今回はエネルギーと重力の話をしている最中に突然M5.6の地震というサプライズが。彼のデザインのテーマの話と、偶然リンクしたそのあたりからトークをスタート。


――ニコラさんのデザインって浮遊しているイメージがありますね。

浮いている物が大好きなんです。以前、ミラノサローネスワロフスキー展示をしたときも、LEDを埋め込んだスワロフスキーをバルーンの中に入れて、宙に浮かす展示をしました。パーティーでは、浮いているフードを食べる演出もしました。20トンのトラックで5トンの荷物を運ぶというのは、よく考えるとおかしいでしょ。重力がなければ、その必要はない。ゼログラヴィティの車を今は考えています。

――無重力だったら地震があっても関係ないですからね。すべてが浮いているので。

そう、その通り。現代社会は対立すること、ぶつかることはNG。テンションで引っ張り合うこともダメ。物を軽くすることで、無重力の状態に近づけることができます。でも、今回発表した本は重すぎる。自分で言っていることと、やっていることが違いますね(笑)。

――今回発表された本はいつから準備を始めたのですか?

2年前から今回の作品集の準備を始めました。私は大体10年ごとに自分の作品と考え方をまとめた本と香水を、テーマを決めて発表します。約10年前にも本と香水を発表しました。それは、本は読み終えるのに1時間程度は必要ですが、香りは1秒で伝わる。今までのやった自分の作品をノスタルジックに紹介することが目的ではなくて、これから何ができるかを整理してリセットする意味を込めています。過去と同じものをやる気はないので、これを見て何ができるかを広く理解してもらいたい、という思いもあります。今、手がけているものを含めて、大きなプロジェクトが多く複雑でわかりにくいのですが、この香水のデザインのように、水が落ちた後の波紋のように次の時代に広げていきたい。一目見て、どこまでシンプルなことをエッセンシャルなデザインにできるかをいつも探している、ということを伝えたかったのです。

――本も香水もコミュニケーションのメディアということですね?

デザインはコミュニケーションが大事なのですが、世の中はどんどん速く小さくなってきており、文化の垣根もなくなってきています。そのため、一秒で情報を伝えるために、どういうデザインが必要かということを常に考えています。この香水ボトルは大人でも5歳の子供でも年齢に関係なく、世界中の誰でもが水滴の落ちるときの美しさだと分かると思います。すべての人が理解できるデザインを探さなければいけない。それは誰が写真に撮っても、雑誌などのメディアなどに載った情報を含め、編集しなくても伝わるものでなければダメだと思っています。そしてそのデザインの背景、コアなテーマがどこから来ているものかというプロセスが重要だということを、一緒にやっている若いデザイナーたちにいつも話しています。

――「“出会いの芸術”を探してきた」と本にもありますが?

デザインの仕事とは何かというと、インターフェイスを作ることです。それはプロダクトでも空間でも、人と人が出会うためにデザインをしています。私はリテールの仕事においてグジュアリーブランドの仕事もしていますが、ユニクロの仕事も以前からやっていました。ファッションという範疇では同じですが、空間デザインの何が違うのかというとそれは“出会い”です。


■interview & text:野田達哉

--次回(2/4)ではファストファッションとラグジュアリーブランドの空間をデザインする違いについて話を聞きます
野田達哉
  • グエナエル・ニコラさん
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