マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)や、エルメス(Hermès)のアーティスティックディレクターを務めるクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)らも受賞したことでも知られる、新人デザイナーのための「ANDAM Fashion Award(アンダム ファッション アワード)」。
そのグランプリを2012年に受賞。現在、パリのコレットやロンドンのブラウンズを始め世界中のセレクトショップでも注目のデザイナー ジュリアン・デイヴィッド(Julien David)氏。日本を拠点にする理由、クリエーションについて話を聞いた。
パリ生まれのジュリアンは、19歳で渡米し、ニューヨークのパーソンズ美術大学でファッションを学んだ。ナルシソ ロドリゲス(Narciso Rodriguez)、その後ラルフ ローレン(Ralph Lauren)のパープルレーベルのウィメンズウェアデザイナーとして活躍した後、2006年に来日した。
「日本のアートや建築に興味があり、日本に来ようと思いました。当時の私はとても若くて、好奇心旺盛でクレイジーでしたね(笑)。実際に訪れてみて、東京はパリやNYと同じく大都会だけれど、欧米の都市とは全然違った魅力があって驚きました」と当時を振り返る。
ブランド設立は2007年。当初はシルクスカーフのみの提案だったが、4シーズン目で、コートだけで構成される初のウィメンズコレクション15体を発表した。2011-12年秋冬シーズンには初のショーを開催。コレクションは、すべて日本製の素材を使って作られている。
「コンセプトやフィーリングを表現するために、様々な技術や素材を見つけ出して、それをモダンなコレクションに落とし込みます。東京の生地の展示会で見つけたチロリアンジャカードの工場を桐生まで訪ねて、工場に保存されているアーカイブをアレンジしてアウターウェアに使ったりもしていました。まだ若いファッションブランドですから、毎シーズンが勉強で、チャレンジの連続です」とジュリアンは語る。
世界的に見ても大きなファッションマーケットのひとつである日本に拠点を置き、素材選びから販売まですべて同じ場所でできることが、デザイナーとして大きなアドバンテージだというジュリアン。
「日本のマーケットで売れる商品というのはとても特徴的で、欧米とも他のアジアのマーケットとも違います。日本的なテイストとでも言うのでしょうか。日本の消費者は、クリエーションにとても興味を持ってくれるので、若くてアイディアがあるデザイナーにとってとてもチャンスがある場所だと思います。日本では、いわゆるファッションピープルではなく、普通の若い人でもファッションにお金をかけたり、新しいファッションにどんどん挑戦したりします。自由にファッションを楽しむ雰囲気がある。それは私がヨーロッパ人だから余計そう思うのかもしれません。ヨーロッパでは、ファッションが社会的地位を象徴するということもありますから」
ANDAM受賞の話題になると、「フランス人にとって、パリで受賞できたことはとても光栄です。たくさんの尊敬するデザイナーたちがもらった賞でもありますから」と笑顔になった。
「他にも良いブランドが候補に挙っていましたが、(私のコレクションは)、他とは違うことが評価されたのだと思います。モードだけどストリートがミックスされて、しかも上質な素材。そういう服作りをするのは簡単ではありませんが、これは私の大きな強みです」
近い将来、東京に初のショップをオープンしたいと話すジュリアン。「自分の世界観をコントロールできるショップは、デザイナーにとって、とても貴重なプレゼンテーションの場です。顧客と直接コミュニケーションを取れるのもよい機会ですし、そのようなショップが持てる日を今から心待ちにしています」
2013年春夏シーズンのウィメンズコレクションは、「Spoiled Child (甘やかされた子ども)」がテーマ。思春期の子たちが自分のスタイルを発見していくというストーリーをデザインに落とし込んだ。ジュリアン自ら描いた恐竜やおもちゃのポップでカラフルなプリントは、メンズコレクションにも登場している。
「来秋冬コレクションは今までよりも比喩的で抽象的な、そしてドレッシーなコレクションになると思います」とヒントを少し。東京で暮らすパリジャンが発信するクリエーションのこれからに注目だ。