ランウェイに敷かれたままのビニールの上を歩くモデルの危うさは、コレクションのテーマそのもの。開演前からそのビニールはいつ取り除かれるのか、あるいは取り除かれないままショーがスタートするのか、客席の話題だったが、ショーはそのままスタート。6月にミラノで発表されたメンズと同じテーマの「Ambiguous daze in my ambiguous days」は、ファセッタズム(FACETASM)のウイメンズの新しい方向性を示した。
メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク東京2016春夏の初日、10月12日に東京の夜景の見えるビルの狭い通路で行われたファセッタズムの2016春夏コレクションは、ミラノで発表された時よりさらに客席の近くをモデルが歩く演出。流れる時間の一瞬を切り取ったかのようなメイクとヘアは、同ブランドのコレクションを以前からサポートするyUKIとABEのコンビによるもの。デザイナー落合宏理の世界は、「東京のモード」という線上を着実に歩んでいる。
結ぶ、繋ぐ、巻く、結わえる、重ねるという表現が、ルックのキーモチーフとなってショーが進行。モールで凹凸のあるチェック、ストライプの素材、反射板と蛍光カラーの工事用ベスト、ウーステッドのスーツ生地はセルベッチを生かしスパイラルスカートにと、メンズで発表されたアイデアは女性らしく、フェミニンなアイテムに仕上げられた。
MA1やスクールソックス、ライダースのレザーベストといったアメリカンなストリートカジュアルがソースとなったアイテムを、チャイナボタン(カンフーボタン)に代表される繊細なディテールのアイテムが覆うスタイリングなど、深読みさせるコンセプトと共に、モードにこだわる新しいファセッタズムの“一面”を見せた。
text:野田達哉