「イセタン羽田ストア」が主要なターゲットとしているのは、国内外をアクティブに飛び回る男性ジェットセッター。彼らの多くは本物に対するこだわりが強く、気に入ったブランドを長く使い続ける傾向がある。伊勢丹メンズ館のノウハウが活きてくるのは、まさしくこの点だ。
「イセタン羽田ストア」がビジネス、ヴァカンスの両面で新しい旅のライフスタイルを提案すべく取り揃えた約200のブランドは、既に伊勢丹メンズ館で確かな販売実績を積んできた定番ブランド。販売傾向にメンズ館との違いがあるとするなら、それは空港ターミナル内という立地の特異性と、ジェットセッターという顧客特性によるものと考えていいだろう。 店長の小島伸一氏によると、売上げ金額が最も大きいカテゴリーはコスメだという。
「コスメはユニセックスな商品ということもあり、ご主人が奥様のために買われるケースが多いのです。スタッフによる丁寧な説明も販売を後押ししていますね。例えばサンタ・マリア・ノヴェッラなら、世界最古の薬局がルーツであるという、ブランド特有のストーリーを分かりやすくお伝えします。カウンターの一角に手を洗えるスペースを設けている点も好評ですよ」
ドレスシャツ、シューズ、ネクタイといったビジネス系アイテムはメンズ館同様とほぼ同じ動きを示すが、マフラーや手袋などのウインターアイテムは「イセタン羽田ストア」の方が早く動いた。これは、北海道や青森など北国方面のゲートが店舗の近くにあるから。ここまでは予想できたが、その先の需要までは読み切れなかったと小島氏は言う。
「洋品・雑貨が主体の店舗なのですが、下期には急遽、ニットジャケット、コート、ダウンなどを入れました。ブランドで言うと、マッキントッシュ、ディベチカ、ラヴェンハム、ピューテリー、ヘルノ、アスペジなど。週末にはこうした重衣料がよく動きますね。開店前の読みはあくまでも仮説。アイテムバランスは常に調整を図っています」 カテゴリーを越えて比較的よく動くのは、同店の特徴でもある羽田限定商品だ。多くのブランドにツーリストや飛行機のアイコンが入った特別な商品が用意されているほか、当店のみで販売する限定商品を扱うニコライバーグマンやオロビアンコのようなブランドもある。ちなみにオロビアンコの限定トートバッグは、開店から1週間で完売してしまったとか。
「最もよく売れている羽田限定商品は、シドーの包帯パンツ。医療用包帯と同様の伸縮性を備えたアンダーウェアで、メンズ館でも人気がある商品です。限定バージョンには飛行機のモチーフが刺繍してあって、これが凄く売れている。メンズ館では新しくない商品なのですが、当店にいらっしゃるお客様には新鮮なのでしょう」
反対に、海外ブランドのアンダーウェアは思ったほどには売れていないという。既知のブランドの安心感よりも、目新しさや独自性。このあたりにも、「イセタン羽田ストア」ならではの顧客特性が見て取れる。
こうした商品の特殊な動きから、同店をテストマーケティングの場として見ているバイヤーもいるらしい。 「メンズ館では扱っていない色やデザインの商品が、当店で売れることがあるのです。意図してアンテナショップ的な意識を持っているわけではありませんが、当店でよく動いた商品が、メンズ館でも売れる可能性は充分にあると思いますね」 オープンから8ヶ月を経た「イセタン羽田ストア」は、今もその姿を変えつつある。簡単には把握できないジェットセッターの消費傾向。同店のトライアルはこれからも続く。