文化服装学院在学中に「ここのがっこう」に通い、2015年、自身の名を冠した「ソウシオオツキ」をスタートさせて大月壮士。今年はLVMHが主催する若手デザイナーの育成・支援を目的とするファッションコンテスト「LVMHプライズ」に日本人最年少でノミネーションを果たしている。
大月壮士へのインタビュー後編。
ーー東京ニューエイジの中では、大月さんの服が一番リアルクローズに近いのかなと思います。リアルとモードの境界線についてどう思いますか?
リアルだけではつまらないので、そこのバランスは意識しています。いわゆる作品っぽいものが学生の時から嫌いだったんで、リアルなものっていうよりは“リアルっぽいもの”を目指していたというか。“ちゃんとしてますよ感”は意識してやっていました。メンズファッションは“リアル”とともに成長してきた部分もあるので。アルマーニとかそうですよね、地に足がついてるっていうか。実生活の中で成り立つモードを提案している。
ーーより“リアル”に近いのは、テーラードを軸にしていることもあるかと思います。
意識的にこだわっているというより、入りがテーラードだったんで。自然とそうなっているっていうのもありますし、一時はテーラーになりたいっていう時期もありました。そこは大事に、大事にというかベースですね。
ーー一貫する和装っぽいイメージはどこから?
実は、あまり“和”のイメージやモチーフは使いたくなくて。だからイメージとして借りてるというよりも、自分の中では日本的なテーラードを作っている感じ。こんなこと言うのは恐れ多いんだけれど、和製アルマーニみたいな感覚。
ーーじゃあ好きなデザイナーはアルマーニ?
アルマーニは、好きというよりもリスペクトですね。ファッションに憧れを持った高校生の頃は、クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)のディオール オム(Dior Homme)でした。それこそ雑誌『HUgE』の、クリス・ヴァン・アッシュの青シャツをグレイのスラックスにタックインしてるスタイリングを見て、モードの世界にはまっていったので。
ーー共に、主にメンズの世界で活躍するデザイナーですね。ですが、今回の伊勢丹でのポップアップ用に、初めてレディースをデザインされましたが、いかがでしたか?
難しいんですよ、これが(笑)。今回はシャツとジャケットとスカートをデザインしました。メンズって、襟をつけて、ポケットつけて、ちゃんとディテールを押さえて、機能性をつけてあげれば、ある程度のクオリティーは担保できるじゃないですか。でもレディースって、シェイプとかあるし、なんか難しいんですよ。体の凹凸も多いから、やりづらいし。「これ着たらどうなるの?」っていう感じでした(笑)。
ーーデザイナーとして喜びを感じる時は、どんな時でしょうか?
月並みですけど、やっぱりモデルに着せたときですかね。「おお、こうなるんだな」「これはキタわ」みたいな。作って、スタイリング組んで、それがイケてたら、嬉しいですね。自分の想像にバチっとハマるときもあるし、超えてくるときもあるし。
ーーご自身の中でアイコニックなアイテムはなんでしょう?
今のところこれといったものはないですが、ジャケットは絶対に毎シーズン作っていくと思います。ジャケットは遊べるところが少ないので、難しい部分もあるのですが、ソウシオオツキのジャケットだと一見してわかってもらえるようにしたいなって思っています。
ーーデザインに対するアプローチについて教えてください。
健康ランドによく行くんですけど、水風呂が好きなんです。水風呂入って、目をつぶっているとめっちゃ集中できて。今までリサーチに行ったり、画像見たりして溜まったアイデアが服としてまとまっていくと言うか。「ポケットがここにあって、こうして、こうしたら…、あ! これだ!」みたいな。
で、サウナに入ると、全部忘れちゃうんですよ(笑)。だから何セットも繰り返す。
ーー温冷交代浴っていうんですよね。サウナ入って、水風呂入って、またサウナ入って…。
旅行っていうほどでもないけれど、出かけたりとかしてリサーチして。そうやって自分の中に溜まった塵みたいなものが、水風呂でキュッと纏まるみたいな感覚です。
ーー毎シーズン、テーマを設けているんですか?
設けているときもあれば、設けていてもあんまり言わないようにしているものもありますね。16SS以降は、ネタくさいのが気分じゃなくなったので、「これがテーマです」みたいな、面白話みたいなのは仕込まないようにしています。
ーー近いうちに実現させたいこと、近い目標をお聞かせください。
取り扱って頂ける店舗を増やしたいです。
ーーでは、最後の質問になりますが、遠い未来どんなブランドになっていきたいとお考えですか?
「日本でイケてるブランドは?」って聞いた時、多くの人の口から「ソウシオオツキ」がパッと出てくるぐらいの存在にしたいです。あとは、ファッションの“文脈”になりたいっていうのはずっと思ってます。30年前のメンズ史にアルマーニが君臨しているように。そうなれるように、「地に足つけて」、ですかね。
今回のインタビューで、二人のデザイナーの名が挙がった。ジョルジオ・アルマーニとクリス・ヴァン・アッシュだ。ともに間違いなく、メンズファッション史に名を刻む人物だ。前者は説明不要の「モードの帝王」。テーラードジャケットから肩パットを取り去り、男性服に柔らかさを与え、ファッションにおける身体性の考え方を更新した。後者は、ディオール オムにて、直接的でマスキュリンなカッティングが冴えるテーラードアイテムを次々と世に送り出している。
両者の名が挙がったこと、これが意味するところは、“男性的な美”の追求にあるだろう。大月のコレクションは、ジェンダーレス化が進み、形骸化していくダンディズムへ警鐘を鳴らしているかのよう。そしてもっと言えば、形骸化するからこそ、より純粋な意味で、“男性的な美”がファッションとして新たな価値を持ち得る。大月が生み出す“ジャパニーズ・テーラード”は、メンズファッションの新たな地平を切り開く、そんな価値観すら含んでいるのかもしれない。
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