2016春夏シーズン、パリメンズコレクションでは、遠目から見てそれとわかるような奇抜なシルエットは減少し、素材やディテールで品質の高さをアピールするブランドが多く見受けられた。
その顕著な例が、ルカ・オッセントライバーとアルベール・エルバスによる、ランバン(LANVIN)だ。国立高等美術学校で発表された最新コレクションでは、ファッションに興味を持っていなかった人にも手にとってもらい、着てもらいたいという願いを込めて、構築的で大袈裟なシルエットは避け、ファブリックに刺繍を施したり、ストーンウォッシュ加工をするなど、今まで以上に素材やディテールのテクニックにこだわっている。テーマやストーリーを決めてコレクションを構成するのではなく、ミクロの部分からクリエーションをスタートさせるという創作方法はしばらく続きそうだ。
ウィメンズ、メンズとも時代の空気感を巧みにとらえ、パリコレクションではトレンドセッターであるエディ・スリマンによるサンローラン(Saint Laurent)も、シルエットは全て控えめにし、その代わりにプリントや刺繍で華やかに彩った。元市場だったカロ・デュ・タンプルを会場に、レディースも含めて70体以上のルックを発表。エディ・スリマンがサンローランで復活を遂げた当初は、シンプルなデザインに物足りなさを感じなくも無かったが、今となってはそれが時代の空気となり、トレンドともなっている。エディ・スリマンは先見の明がある希有な存在だ。
最高の素材と仕立てを際だたせるためにデザインを最小限に抑えているのが、ヴェロニク・ニシャニアンによるエルメス(HERMES)だ。コルドゥリエ修道院跡、現パリ医大の建物の中庭と回廊を会場にコレクションを発表。プリントシャツのためだけに版を作り、シェーブルレザーにレーザーカットのシルクをボンディングするなど、時間と労力を厭わない物作りの姿勢は感服の極みだが、ウォータースネークのブルゾンひとつをとっても、パッチワークの縫合部分の凹凸が見えず、まるでプリントのよう。驚異的な技術を駆使している。このブランドは、常にトレンドとは一定の距離を置く姿勢を保ち、現在のトレンドの中で同列に語ることはできないが、結果的に時代の流れに合致しているといえるかもしれない。
ジルダ・ロアエックと黒木理也のメゾン キツネ(MAISON KITSUNE)や、チュイルリー公園内の特設テントでショーを発表したアミ アレクサンドル マテュッシ(AMI ALEXANDRE MATTIUSSI)も、デザインの強烈さが表出しないタイプのブランドだ。それゆえに、ファッション業界関係者ではない一般層を取り込みやすく、着実に業績を伸ばしている。そうして、両者は5月、6月に、それぞれ3号店、4号店をパリ区と11区に相次いでオープンさせた。
ハイファッションが減速するという厳しい状況の中、ファストファッションは依然として隆盛を続け、現在のメンズファッションはそういった時代の流れに迎合しながら次なる発展の道筋を模索し始めている。各ブランドは、デザインしないわけではないが、デザインという概念を変化させる必要に迫られているようだ。