BAOBAOコレクター、ミッツ・マングローブ「バッグだけは裏切らない」【INTERVIEW】

2015.08.11

コレクターにもさまざまなタイプがある。集めるものやかける金額に違いがあるだけでなく、対象に心奪われる理由も人それぞれだ。否。誰かを好きになった時にその理由など説明できないのと同じで、集めずにはいられないことにもまた理由などないのかもしれない。ただ、どうしようもなく心惹かれるのだ。

そして魅力にとりつかれる人間の内には、とかくセンシティブな感情が潜んでいるもの。果たして、無類のバオバオ・イッセイミヤケBAO BAO ISSEY MIYAKE)ファンとして知られるミッツ・マングローブさんの心の奥底には、どのような繊細な感情が宿っているのか。インタビューを通して迫ってみた。

ーー早速ですが、バオバオを集め始めたきっかけを教えてください。

ミッツさん:もともと幾何学的な模様が好きで、タイルなんかを見ていると心が落ち着くんです。アクセサリーとか洋服もエスニック柄だとかサイケなものは苦手で、直線的なデザインの方が好きですね。だから、バオバオはどんぴしゃだったんだと思います。最初はたまたまお店で見掛けたんですけど、見た瞬間「これだ!」って。

ーー現在お持ちのバオバオは大体いくつくらいありますか?

ミッツさん:ポーチなども入れたら100はありますね。普段使うのは基的には1個で、残りは全部、部屋に飾っています。矛盾しているようですが、本当は部屋にあまり物を置きたくないんですよ。だから、バオバオ以外に部屋を占領しているものってないんです。

ーー(撮影用に)お持ちいただいたバオバオは色違いで同じ形のものもありますが、やはりコレクターとして全色揃えたくなるのでしょうか?

ミッツさん:いいなと思ったら全部手に入れないと気が済まないんです。病的なとこがあるなと自覚してはいるのですが、人のモノになるかもと思うとダメで。あと、自分の好みが分からないんですよ。自分が「いいな」と思っても、それが本当にいいと思う自信が持てないんです。だから、例えば3色あったら3色全部買うことが多くて。でも、中には1色しかない子(バオバオ)もいるわけで、そういう子には、部屋の景観を乱す存在にならないように“権力”を与えるんです。

どういうことかっていうと、私自身が、学生時代に“みにくいアヒルの子”みたいに一人だけ浮いてしまう存在になりがちだったせいか、集団行動という概念に捕らわれる傾向があるんです。「本当は紛れていたい」っていう思いが強いのに紛れられなかったというこれまでがあるので。

だから、1色しかない子(バオバオのアイテム)には“偉い存在”に仕立て上げることで、いじめられっ子とか仲間外れにならないようにしているんです。バオバオたちの中でヒエラルキーを持たせるんですね。実際、バッグたちに「(一つしかないバッグに)あなたは偉いのよ」と言い聞かせることもありますよ。それでもどこにも紛れられなくて浮いちゃう子もいるので、そうなると里子に出したり、飾る部屋を分けたり。

ーー複数色から1色を選ばないといけない場合はどうしているのですか?

変な話、選べなくなったら母親を呼んで、彼女がいいって言ったほうを買います。自分の感性だけはまったく信用してないので、人がいいって言ってくれないと不安なんです。誰かが背中を押してくれて、ようやくいいと思えるんです。

ーー著書『うらやましい人生』でも、小さいころから、センスのあるお母様にお洋服など選んでいただいていたことを振り返られていますね。

母親の影響が大き過ぎたので、自分の感性やアンテナだとかあやふやなまま育ったところはあります。だから、物を買うときにも衣装を選ぶときにも必ず母親の顔が浮かびます。「これだったら母親は好きかな」とか「こんなのイヤっていうかな」とか。本当に煩わしいと思うんですけど、自分にとっての指針がそれしかないんです。昔からの知り合いの人たちにも「若いころのお母さんと同じ格好だね」と言われるんですけど、私は無意識なんですよね。洗脳と一緒で、自分では分からないんです。

ーー洋服以外のお買物の時はどうされているんですか?

買い物はとにかく苦手ですね。例えば伊勢丹に買い物に行ってワイン一つ買うにしても、見知った店員に「いつものあれを」ってお願いするのがお決まり。メイク用品にしても、私はこの顔を作れればそれで十分なので、いろいろ試すことにまったく興味がなくて、見ているだけ時間の無駄だと思っています。全部、「ミッツ・マングローブ」になるためのツールだから、小道具の“補充”さえできればそれでいいんです。

ーーそうした考えがある中で、バオバオに惹かれたのはなぜなのでしょう?

私、どうやらバッグがすごく好きらしいんです。“らしい”って表現したのは周りの人に指摘されたからなのですが、実際、気付いたらバッグ売り場で足を止めていることが多くて。それで、これはなんでなんだろう? と自分で分析した結果分かったんですが、「バッグだけは裏切らない」というのがその理由です。

もともと身体が大きくて、中学生のころにはすでにこの体型だったので、男物のであっても、やっとの思いで選んだのにサイズがないことが度々ありました。女装するようになってからは、靴も服も女物だからなおさら。

本当は、どこかに自分のセンスやスタイルを落とし込めるアイテムを探求したいという思いも、過去には存在したのかもしれないですね。早い段階でその気持ちに対するシャッターを閉めちゃったので、そこからセンスが育まれてないんです。だからモデルが母親しかいないし、ずっと80年代が好きで進化していない。だからこそ、バッグに救いを求めたのかもしれません。

■プロフィール
女装家 ミッツ・マングローブ
「普通」に憧れ、「普通」になれなかった少年
子供時代から、おネエブーム、芸能界のこと。
40歳の節目に初の自叙伝「うらやましい人生」発売中。
松本玲子
  • ミッツ・マングローブさんの蒐集愛とは
  • 取材当日もBAOBAOコレクションを揃えてくれたミッツさん
  • 一言ずつ言葉を選びながら語るミッツさん
  • 正三角形のループで構築されたバッグ
  • 最近、ほぼ毎日持っているというバオバオのバッグとポーチ
  • どの色がいいか選べなくて、結局全カラーそろえてしまったというシリーズ
  • ミッツさんのBAOBAOコレクションより
  • ミッツさんのBAOBAOコレクションより
  • ミッツさんのBAOBAOコレクションより
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