今から遡ること約50年前、“1968年”が密かな注目を集めているという。かつて多くの人々が科学とテクノロジーのもたらす豊かな未来と人類の発展を信じ、高揚していた時代だ。スタンリー・キューブリックの映画『2001年宇宙の旅』や、映画『ブレードランナー』の原作となったSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 』(フィリップK・ディック)が発表された年である。
東京・銀座にある資生堂ギャラリーで12月24日まで開催中のザ・ユージーン・スタジオ(THE EUGENE Studio)による個展「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」は、その“1968年”から半世紀後の現在、あるいはこれからの半世紀をモチーフに、「破壊から再生へ」をテーマとした新作インスタレーションや平面作品の展示を行っている。
THE EUGENE Studioは、現代美術を中心に多様な活動を行うアーティスト集団で、新素材やAIなどのテクノロジーを使った作品作りの他、山形県鶴岡市と共同で行ったバイオテクノロジーと農業を融合させたプロジェクト「Agricultural Revolution 3.0(邦訳:農業革命3.0)」など、アート作品を制作・展示するだけでなく、美術の領域を超えてどうしたらアートが実社会と調和し、現在とつながる次の社会や未来を形づくることができるのかという活動を一貫して行っている点に特徴がある。チームラボ(teamLab)やタクラム(Takram)らとともに、世界が注目する日本のアーティストチームとして大きな脚光を浴びる存在だ。
本展のメイン作品となる「Beyond good and evil, make way toward the waste land.(邦訳:善悪の荒野)」は、今からちょうど約半世紀前の1968年に公開された『2001年宇宙の旅』のラストシーンに出てくる白い部屋を廃墟化したものだ。1968年当時、無限に発展し続けるかのように思われた科学や、テクノロジーに導かれていた“人類の20世紀的価値観”が、その後、環境問題や生命倫理によって生まれた“歪み”により、大きく転換している状況を象徴的に、部屋を破壊/風化させることで表現したという。一方で、この作品から9.11や災害的なイメージを連想することもできるだろう。技術が進歩してもなお、人間を通して破壊的な行為は持続するということを伝えている作品でもあるのだ。
同じ展示室の壁に展示されている「Drawing; Model room for Agricultural Revolution 3.0」は、山形県鶴岡市と共同で行ったバイオ農業プロジェクトの設計図を銅板に刻んだ作品だ。4枚組の銅板には、新素材でできた衣類や家具に囲まれた、快適で穏やかな生活、部屋が繊細な線で描かれている。銅板を使用する古典的な手法と、4枚を1組とする平面作品の手法を選ぶなど、美術史の中にある絵画へのオマージュが込められている点もTHE EUGENE Studioらしい作品と言える。
メイン作品と対峙するよう配置された壁には1枚の真っ白いカンヴァスが展示されている。「White Painting」と題されたこのインスタレーションは、100人程の人々の接吻が刻印されている作品。アメリカ、メキシコ、台湾で、街往く人に声をかけ、カンヴァスにキスをしてもらうというコンセプトで制作され、各地での様子は設置されているスマートフォンの動画で見ることができる。一見何もないように見えるカンヴァスに、参加者の多くが語った「愛についての想い」と、接吻という痕跡によって生まれたアートなのだ。
21世紀の新しいアートのあり方を提示するとともに、実社会の中で新しい技術を未来のために活かそうとするTHE EUGENE Studioの試みは、革新(確信)的であり、見る者にさまざまな問いを投げかける。それでいて作品にはその背景に広がる丁寧なテキストが用意されているため、見る者を置き去りにすることがない。
現代のテクノロジー、科学、社会や環境と並行しながら、未来を予言するかのようなTHE EUGENE Studioの空間を、資生堂ギャラリーで体感して欲しい。
「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」会場撮影 : Hideyuki Seta
東京・銀座にある資生堂ギャラリーで12月24日まで開催中のザ・ユージーン・スタジオ(THE EUGENE Studio)による個展「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」は、その“1968年”から半世紀後の現在、あるいはこれからの半世紀をモチーフに、「破壊から再生へ」をテーマとした新作インスタレーションや平面作品の展示を行っている。
THE EUGENE Studioは、現代美術を中心に多様な活動を行うアーティスト集団で、新素材やAIなどのテクノロジーを使った作品作りの他、山形県鶴岡市と共同で行ったバイオテクノロジーと農業を融合させたプロジェクト「Agricultural Revolution 3.0(邦訳:農業革命3.0)」など、アート作品を制作・展示するだけでなく、美術の領域を超えてどうしたらアートが実社会と調和し、現在とつながる次の社会や未来を形づくることができるのかという活動を一貫して行っている点に特徴がある。チームラボ(teamLab)やタクラム(Takram)らとともに、世界が注目する日本のアーティストチームとして大きな脚光を浴びる存在だ。
本展のメイン作品となる「Beyond good and evil, make way toward the waste land.(邦訳:善悪の荒野)」は、今からちょうど約半世紀前の1968年に公開された『2001年宇宙の旅』のラストシーンに出てくる白い部屋を廃墟化したものだ。1968年当時、無限に発展し続けるかのように思われた科学や、テクノロジーに導かれていた“人類の20世紀的価値観”が、その後、環境問題や生命倫理によって生まれた“歪み”により、大きく転換している状況を象徴的に、部屋を破壊/風化させることで表現したという。一方で、この作品から9.11や災害的なイメージを連想することもできるだろう。技術が進歩してもなお、人間を通して破壊的な行為は持続するということを伝えている作品でもあるのだ。
同じ展示室の壁に展示されている「Drawing; Model room for Agricultural Revolution 3.0」は、山形県鶴岡市と共同で行ったバイオ農業プロジェクトの設計図を銅板に刻んだ作品だ。4枚組の銅板には、新素材でできた衣類や家具に囲まれた、快適で穏やかな生活、部屋が繊細な線で描かれている。銅板を使用する古典的な手法と、4枚を1組とする平面作品の手法を選ぶなど、美術史の中にある絵画へのオマージュが込められている点もTHE EUGENE Studioらしい作品と言える。
メイン作品と対峙するよう配置された壁には1枚の真っ白いカンヴァスが展示されている。「White Painting」と題されたこのインスタレーションは、100人程の人々の接吻が刻印されている作品。アメリカ、メキシコ、台湾で、街往く人に声をかけ、カンヴァスにキスをしてもらうというコンセプトで制作され、各地での様子は設置されているスマートフォンの動画で見ることができる。一見何もないように見えるカンヴァスに、参加者の多くが語った「愛についての想い」と、接吻という痕跡によって生まれたアートなのだ。
21世紀の新しいアートのあり方を提示するとともに、実社会の中で新しい技術を未来のために活かそうとするTHE EUGENE Studioの試みは、革新(確信)的であり、見る者にさまざまな問いを投げかける。それでいて作品にはその背景に広がる丁寧なテキストが用意されているため、見る者を置き去りにすることがない。
現代のテクノロジー、科学、社会や環境と並行しながら、未来を予言するかのようなTHE EUGENE Studioの空間を、資生堂ギャラリーで体感して欲しい。
【イベント情報】
THE EUGENE Studio 1/2 Century later.
会期:2017年11月21日~12月24日
会場:資生堂ギャラリー
住所:東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
開館時間:11:00~19:00(日・祝〜18:00)
休館日:月曜日
入場無料
資生堂ギャラリーオフィシャルサイト
■THE EUGENE Studio
THE EUGENE Studio(ザ・ユージーン・スタジオ)は日本を拠点に、スクリプト、脚本を中核としたインスタレーションや平面、映像作品などを手がける。過去にサーペンタインギャラリー(ロンドン)でのプロジェクトや国内での個展、近年ではアメリカ三大SF賞受賞の小説家ケン・リュウとの共同制作のほか、人工知能や都市、バイオテクノロジー領域の共同研究に招聘されるなど、その活動は国内外で評価されている。創業者のEugene Kangawaは1989年アメリカ生まれ。
THE EUGENE Studio 1/2 Century later.
会期:2017年11月21日~12月24日
会場:資生堂ギャラリー
住所:東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
開館時間:11:00~19:00(日・祝〜18:00)
休館日:月曜日
入場無料
資生堂ギャラリーオフィシャルサイト
■THE EUGENE Studio
THE EUGENE Studio(ザ・ユージーン・スタジオ)は日本を拠点に、スクリプト、脚本を中核としたインスタレーションや平面、映像作品などを手がける。過去にサーペンタインギャラリー(ロンドン)でのプロジェクトや国内での個展、近年ではアメリカ三大SF賞受賞の小説家ケン・リュウとの共同制作のほか、人工知能や都市、バイオテクノロジー領域の共同研究に招聘されるなど、その活動は国内外で評価されている。創業者のEugene Kangawaは1989年アメリカ生まれ。
「THE EUGENE Studio 1/2 Century later.」会場撮影 : Hideyuki Seta