エディトリアルを始め、音楽や映画などのエンターテインメントのビジュアルでも様々なアーティストを支え続ける、ヘアメイクアップアーティストの冨沢ノボルさん。その類い稀なる美しいクリエーションの活躍は、洋の東西を問わない。名立たるアーティストからの指名の絶えない、冨沢さんのクリエーションの秘密に迫った。
ビューティーとは時代と共に変わる意識に伴って変移していくもの
「好きな作品は、ケヴィン オークイン (kevyn Aucoin=夭折した伝説のメイクアップアーティスト)の写真集や’60sのRudi GERNREICH。映画であれば、『ブレードランナー』など、未来を感じさせてくれるもの」
大胆な色使いに内包させる繊細さ。その、計算され尽くされた冨沢ノボルさんの作品を見る度、驚きや裏切りにも似た美しさを感じさせてくれる。「すべての時代に、それぞれの素晴らしさがあり、過去の時代を経て今があります。時に過去を振りかえることで今を感じ、未来を創造する事がクリエーションなのだろうと思うのです。それは、少しだけ先の事を考える想像力が大切と感じているからかもしれません」
ファッションやビューティーの、それぞれのムーブメントはいつも、社会や経済などと密接に結びつきながら生まれるものだろう。であれば、めまぐるしく変移し続ける近年においても呼応するように創り出される、冨沢さんのビューティーたらしめる瑞々しさはどのように結びついているのかを尋ねてみたくなる。
「常に今を感じ、キャッチできるように努めています。例えば、仕事の現場だけでなく、毎日の暮らしの中でも何が自分にベストなものであるかを探し続けていることなど。ビューティーも同じで、今のムードが大切。美しさは時代と共に変化していくものだから」
確かに、この数年、いやそれよりももっと前の頃と今とでは、私たちを取り巻く環境も大きく変わった。紫外線やストレスなどによる肌のダメージを考えても明らかだ。これほどまでにナーバスではなかったはずだ。そんな肌や、延いては肌作りには、いわゆるモードを反映しているとも教えてくれた。
肌作りは、社会性や時代性を写し出すメイクアップの鍵
「肌は、どの時代においても、社会性や時代性を写し出すメイクアップとしての重要な役割を担ってきました。僕のメイクアップには、少なくとも肌作り=ベースメイクに時代性を考えながら行っています」
そう言われると、気になるのは今季の肌だ。「この数年は、大きな変化はなく、限りなくナチュラルに作るのがトレンド。大切なのは、素肌感です」だが、何より大事にしているのは自身の“カン”であると言う。
「常に新しい表現に挑戦し追及したいと思っていますが、撮影の時のヘアメイクアップなど一瞬で決めることが大半。テーマに伴い、モデルの状態や現場のムードなど考慮し、最後は自分の直感を信じてヘアメイクを行っています。もちろん、クライアントが予想していた仕上がりとは異なることもありますが、すぐに修正できるのがメイクアップの素晴らしいところ。常に柔軟性を持って対応出来る力が必要です」
では、色についてはどうだろう。気になる色はあるはずだ。「ニュートラルなカラーは、変わることなく好きです。肌色のライトなカラーからダークなブラウン。ベージュブラウンからのグラデーョンは、永遠に美しい。差し色としては、アースカラーのネイビーやカーキ色などのシックな色は今シーズンの気分です。リップカラーは、変わらず深みのあるワインカラー=ボルドーなどは好きですが、そこにビビッドなカラー ーー例えばグリーンやオレンジやピンク、イエローなどーー を僅かに加えるとまた、一味違った面白みが生まれます。それから、冬の白、それも真っ白が好きですね」
メイクアップだけではなく、ヘアも手がけているのも冨沢さんらしさであると言えるだろう。グローバルに活躍するクリエーターとしては、非常に珍しいからだ。「ヘアとメイクアップの両方を行うことにこだわるのは、顔と頭は別々ではなく一体であるから。そう捉える事で、自分が表現したいクリエーションの幅が広がるからです」しかし、ヘアとメイクアップは、それぞれの技術面では別のもの。「それだけに大変ですが、ファッションが有りそれに合わせた、メイキャップが有り、ヘアが有る。僕は、トータルに見た美を作っていきたいという思いが有り、バランス感を大事にしています」
その情熱をも感じさせるクリエーションの、驚きにも似た圧倒的な美しさは、パワフルで鮮やかだ。「絵を描くような感覚でメイクアップについて考える人もいますが、僕は人と向き合う職業と思っています。人間が好きじゃないとできないかもですね。毎日の出会いの中で生まれるものを大事にしつつ、少しだけ未来の今を表現していきたい。そこに、日本の伝統美なども取り入れられたら素敵ですね」ーー人への愛と誠実さが、冨沢さんのクリエーションの絶対的な美しさを司っているのだろう。そう思うと、また新しい冨沢さんの美が見えてくる。
【プロフィール】
Hair&make-up 冨沢ノボル:
東京をベースに、ファッション誌、広告、TVコマーシャル、CDジャケット、PV、ランウェイをはじめ、映画、舞台のヘアメイクディレクションも手掛ける。また、ネイルやアイラッシュ、帽子などのプロデュースを行うなど、幅広く活動。2014年に発表した KEIICHI NITTA+NOBORU TOMIZAWA「DOUBLE EXPOSURE」では、従来のヘアメイクの表現に縛られず自由な発想で作品を制作。表現の幅を広げながら、常に進化し続けている。