「今の時代は良くも悪くも“軽い時代”だと思います」
と、コムデギャルソン社のメンズブランド「ガンリュウ(GANRYU)」率いるデザイナー・丸龍文人(がんりゅう・ふみひと)氏は始めた。
2008年にスタートしたガンリュウ。今年3月の東京ファッションウィークに参加し、初の大舞台を経験した。先日のコムデギャルソン展示会では14SSコレクションをフロアで披露。ショー終了後も展示会に姿を見せる氏に最新コレクションと展望を聞いた。
14SSフロアショーではヘアメイクも凝ったことに加え、初めてBGMを流した。東コレの影響があるのだろうか?「ファッションウィークで貴重な体験が出来て、欲が出ました(笑)。川久保に相談したらなんで今までやらなかったの?といった感じだったので、初の試みとして音楽を流しました。今後もできる範囲で自由にやれたらいいなと思っています」
14SSテーマは「サーフ・ザ・バランス(Surf the balance)」。前述の“軽さ”を表現したという。「軽い言葉を考えたときにサーフ・ザ・バランスというワードを用いました。波に乗るという意味ではなく、感覚的な概念でのサーフです。海外でもサーフする=流すという軽い意味でも一般的に使用されている言葉を選びました。特に今、あまり重い服をまといたくない気分なのでテーマにも反映したかったのです」
14SSでは以上のようにリラックスした雰囲気で異素材ミックスやパッチワークなどのディテールを発表した。様々なプリントが用いられたが、一見ワニ革のように見えるプリントは鮫革だ。
「鮫が好きなんです。子供の頃から好きで。鮫革ってタイヤみたいにとても硬くて服には使えない。せいぜい財布などの小物だけ。その硬さを柔らかい素材のカットソーに転写プリントして現実にはありえないテクスチャーを表現してみました。それを可能にする日本のプリント技術は素晴らしいですし」
“鮫革プリント”はカットソーだけでなく、合繊素材にも転写し、バッグや初登場となるタイパンツにも用いられている。「数年前から作りたかったんです。でも、タイミングがしっくりこなくて。来春夏の店頭に並ぶ時期、1年後がリアルな着用時期だと思うんですけどそこが自分にとってドンピシャのタイミングでした」
ガンリュウと言えば、サルエルパンツなどボトムのシルエットを遊んだアイテムが多く登場する。来季もサルエルがもちろん登場。学生の頃からボトムは遊んだシルエット感が好きだったという。「サルエル等の形、シルエットがすごく好きです。スケボーをやっていた当時は、ボトムを落として履くことが好きで。でもトップスはあえてかっちりしたテーラードを合わせてバランスを取っていました。例えばシュプリームのトップスにマルジェラのボトムスを合わせたりなど、 自分らしいバランスでプラスマイナスゼロのニュートラルな状態で常にいたいんです。バランスが取れていないと身体的にも精神的にも不安定になってしまう気がします」
そのバランス感覚がクリエーションに表出され、様々なミックステイストへとつながる由縁だろう。来季はミリタリー×スペンサージャケットやテーラードカラー×スポーツブルゾンなどが登場している。色をグラデーションで切り替えたテクニックも見られた。
「どういうものを組み合わせたらありえないか、について常に考えています。いかに真逆の要素を用いて腑に落ちる組み合わせを作れるか。14SSは黄と赤、緑と青など中間色同士の組み合わせを提案しました。実はこれはエスニックな色彩の関係なんです。形とか思想的な部分で中間的な物同士をつなぎ合わせる、そういう意味でのエスニック。概念のエスニックさを試みています。全体的に中間的な要素を組み合わせるという手法で統一しています」
コムデギャルソン社の中で最も異質なブランドと目されるガンリュウ。その行きつく先はモードの最果てなのか?それともストリートの牙城なのか?
「ストリートの文脈でカテゴライズされることもありますが、自分ではそう思っていません。でも自分の考えは押し付けたくありません。ファッションは“自由”ですから。自由じゃなかったらユニフォームになってしまいます」と見解を述べ、以下に続ける。
「実を言うと毎回発表する度に、“これじゃない”と得心が行かないんです。もちろん、自分が着たい、また商品として販売するという自分にとって最低限のボーダーはクリアしているのですが、本当はもっともっと違う所を目指しています。コムデギャルソンのみならず、世の中に無い方向です。根本的な部分から存在していないビジョンを持っていて、それが故に広く定番になりうることが出来る。そんなスタンスで物作りを行う存在でしょうか。普遍的で、世界中で通用する物作りをしたい。言葉にすると味気ないので、そこに到達したときに、『これが私のやりたかったこと』と公言すると思います。すでに誰かがやっていることであれば目指しようもあるのですが、誰もやっていないことなので、自ら見つけていくしかないです。物作りに関しても根本的ビジョンと平行して、毎シーズン、自分自身グっときて、皆様にも良いと思ってもらえる物作りを目指し、挑戦し続けたいです。」
その精神はやはり“コムデギャルソン”であるようだ。