3月下旬の桜の季節、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA、DSMG)3周年を祝し、5階のシモーネ ロシャ(Simone Rocha)スペースに無数の花が咲いた。デザイナーのシモーネ・ロシャ自身が手掛けた “狂乱の花(MAD FLOWER)”だ。
その花はシモーネ ロシャ15SSシーズンで発表されたシノワズリのような赤のフラワープリントアイテムに用いられているコサージュと同じテクスチャー。フェイクだが、匂い立つほどに瑞々しく、そして狂おしい。
15SSコレクションは黒、フラワープリント、白とはっきりしたシーンで構成。それぞれに共通するのは“花のモチーフ”だ。
「今シーズンは花を様々な方法で見せたかった。ブロケード、プリント、コサージュ、チュールに刺繍、クロシェレース……。コレクションはダークな悲しみで始まり、狂ったように花が咲き乱れ、清純無垢で終わるの」とシモーネ。
インスピレーション源は、ドイツのダンスカンパニー「ピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団」の公演。伝説的ダンサーであるピナはデザイナー・山本耀司のミューズとして有名だが、2009年に鬼籍に入った後もロンドンを代表する若きデザイナーを魅了したようだ。
シモーネは2012年、世界のメガロポリスをモチーフとした演目「World Cities」を鑑賞し、“香港”をテーマとした「Der Fensterputzer(窓清掃人)」に感銘を受けたという。そのステージには、まるで華道家・中川幸夫の作品「魔の山」のように漆黒の舞台に真紅の花弁が山のように積もる。「パフォーマンスの動き、感情、そして何より花の山に感銘を受けたの。愛と喪失を感じたわ」
シモーネは2年前のDSMG1周年の時も来日し、花を用いたインスタレーションを行っている。その時は生花のあじさいやミモザが彼女の13SSコレクションに華やぎを添えた。2月に発表された15-16AWコレクションでは現代美術家、ルイーズ・ブルジョワの作品からインスパイアされた一見花弁のような形が用いられている。人の顔を覆った花のモチーフもチュールに刺繍として描かれた。彼女はフラワーモチーフを多用するのだ。
「抽象的な形が好きなのかも。花はそれぞれ形や色の染まり具合が違うし、粉が吹いていたりとテクスチャーも異なる。人工的でなく、オーガニックなところに惹かれるわ」
デザイナーをしていなかったら花屋になっていたかもしれないというシモーネ。好きな花との問いに、「Peony rose」と返ってきた。落ちるほどに大振りなバラだ。クラシックでワイルドなところが気に入っているという。
「まだコレクションには使っていないけどね。花は春夏秋冬それぞれのシーズンに合わせ、芽が吹き、開花し、そして枯れる。まるでファッションのようね」
ロマンティックな中にどこか毒気があるシモーネ ロシャの服。ロンドンコレクションを牽引する彼女のクリエーションは大輪のバラのような芳香を放っている。