「アルバレス・ブラボ写真展-メキシコ、静かなる光と時」が、7月2日から8月28日まで、東京・砧公園の世田谷美術館で開催される。
マヌエル・アルバレス・ブラボは、20世紀写真史に大きな足跡を残したメキシコの写真家。10年あまり続いたメキシコ革命の動乱を経て、壁画運動や前衛芸術が盛り上がりを見せた1920年代末に頭角を現し、最晩年の1990年代末に至るまで、一貫して独自の静けさと詩情を讃えた写真を撮り続けた。晩年の1997年、アルバレス・ブラボが95歳の時には、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で回顧展が開催されている。
本展では、作家遺族が運営するアーカイヴの全面的な協力を得て、192点のモノクロプリントと多数の資料を、全4部、9章構成で年代順に公開。約70年におよぶアルバレス・ブラボの仕事の魅力を紹介する国内最大規模の本格的な回顧展となる。
第1部では、身近な対象のフォルムを強調し、堂々たる記念碑のように撮るモダニズムの写真表現を試みた1920年代のみずみずしい初期作品をはじめ、モダン都市に変貌しようとする1930年代のメキシコシティで、パリを撮ったフランスの写真家ウジェーヌ・ アジェの作品にも感銘を受けながら、街の片隅でふと出合った光景を写し取り、温かみと同時に少々の不穏さも同居する作品などが展示される。
第2部では、撮影者には見えない世界を人々が見つめていると感じさせる作品や、鑑賞者の想像力に働きかける題名をつけた作品をしばしば発表しているアルバレス・ブラボの、視覚と想像力の関係を問う詩的な作品が紹介されるほか、生と死は対立するものではなく、円環をなしているという考え方があるメキシコの死生観がにじみ出ているような作品が公開される。
また、ファシズム体制を逃れた亡命芸術家や知識人を数多く受け入れ、国際的な文化交流の場になっていた1930年代から1940年代のメキシコで、ディエゴ・リベラ、フリーダ・カーロ、アンドレ・ ブルトンやレフ・トロツキーなど、アルバレス・ブラボが撮った著名人の肖像写真も紹介。さらに、アンリ・カルティエ=ブレッソンら他のアーティストからの書簡(複製)や、アルバレス・ブラボの作品が掲載された雑誌等の資料もあわせて展示される。
第3部では、1940年代、生活のために映画産業に入ってスチル写真を撮る一方、国内の遺跡や先住民集落の調査に同行し、記録写真の撮影もしていたアルバレス・ブラボが、尊厳に満ちた先住民系の人々の姿や、力強くも繊細な美しさを見せるメキシコの原野を撮った作品を紹介。トゥルムやボナンパクなどの遺跡調査の記録写真自体も、スライドショーで公開される。また、路上を行き交う人々の様子を軽妙なユーモアとともに撮るようになったアルバレス・ブラボの、映画のワンシーンのようにも見える新しい展開の作品も展示される。
第4部では、国際的な評価が高まる中、1970年代以降も新作の撮影を続け、様々な質の光と、その移ろいがもたらす魅力的な形に眼を凝らし、また、荒々しくも豊かな自然や女性の身体に循環のなかで持続する生命の力を見出し、いっそう精緻になり、時に神話的世界につながる作品を公開。後半では、メキシコシティ南部の静かな地区に佇むアルバレス・ブラボの自宅にある風通しの良い庭を舞台に、ごく小さな空間に干される日々の洗濯物、壁やガラスの窓と戯れる木々の影など、この上ない喜びをもって初々しく撮られた最晩年の作品が紹介される。
なお、会期中には、現地の研究者と作家アーカイヴを運営する遺族をゲストに迎えたトーク「アルバレス・ブラボと20世紀メキシコ写真の歩み」が開催される他、アルバレス・ブラボの写真から生まれたオクタビオ・パスの詩、フアン・ルルフォの短編小説などの朗読と解説から、メキシコ文学の多彩な魅力を伝える文学イベント「メキシコの詩と短編小説をよむ」などが開催される。イベントの詳細やスケジュールは、世田谷美術館の公式サイトから確認出来る。
【イベント情報】
「アルバレス・ブラボ写真展-メキシコ、静かなる光と時」
会場:世田谷美術館
住所:東京都世田谷区砧公園1-2
会期:7月2日~8月28日
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
料金:一般1,000円、65歳以上800円、大高生800円、中小生500円
休館日:月曜日(ただし7月18日は開館)、7月19日