1万数千枚もの個性派ニットを開発。交編という技術を伝える「コーヘン」【山形ニット紀行 Vol.1--米富繊維】

2015.10.12

米富繊維は山形県山辺町で1952年に創業したニットメーカー。世界でも類を見ない多素材使いによる「交編(こうへん)」の技術を持ち、素材開発から生産までを一貫して社内で行っている。社内にニットテキスタイル部門を擁しているのも特徴のひとつで、これまでに1万数千枚にも及ぶニットテキスタイルを開発してきた。その圧倒的かつ個性的な開発力は、国内外のアパレルやデザイナーズブランドから高い評価を受けている。

そんな“技術の米富”が自社ブランド「Coohem(コーヘン)」を立ち上げたのは、2010年秋冬シーズンのこと。東京セレクトショップで販売業務をしていた大江健さん(現社長)は、自社で作った製品がたくさん流通しているのに、名前が表に出ていないことを悔しく思っていた。あるとき、以前から同社が自社ブランドの開発を模索していたことを知り、帰郷を決意。生産ラインに入ってニットの技術を一から習得し、同社の技術の高さ、他にはない魅力的なテキスタイルを直接ユーザーに伝えられるブランドとして、コーヘンをスタートさせた。コーヘンのブランド名は交編に由来し、交編とは「異なる形状の素材を組み合わせて編み立てる技術」のことである。つまりは、社のDNAをブランド名にしているというわけだ。

最初の1年は、鮮やかなカラーリングファンシーツイードのニットジャケットに特化してコレクションを製作。1着編むのに240分かかるという手の込んだジャケットは、すぐに大手セレクトショップや百貨店の目に止まった。それから、ライダースジャケット、スカート、ダウンジャケットスニーカーと少しずつアイテムの幅を広げていったら、いつの間にか人気ブランドの一翼を担う存在になっていた。

現在の日の取り扱い店舗数は、なんと70店舗以上。ここ数年はパリの合同展示会にも出展しており、ミラノのエクセルシオール、イギリスのマッチイズファッションドットコム、香港のI.T、シャインをはじめ、海外の卸先も13店舗まで広がっている。地方発信のファクトリーブランドとしては驚くべき成果を上げている、と言っていいだろう。

ブランドを始めたことは、OEM事業にもいい影響をもたらしている。大江社長は「以前はこちらから先方に出向いて提案することが多かったが、今では自社製品を見てこんなのを作りたいと相談されることが増えてきている」と手応えを見せる。唯一無二のニット製品を作るべくコレクションを発表し続けた結果、毎シーズン新柄を心待ちする熱心なファンが増えてきているという。“コーヘンツイード”が世界共通語になる日も、そう遠くないのかもしれない。

■取材・文/増田海治郎(ファッションジャーナリスト)

イベント情報>
コーヘン5周年記念ポップアップストア
期間:10月14日~20日
会場:伊勢丹新宿本店 本館2F 「アーバンクロゼット」

15-16AWシーズンで5周年を迎えるコーヘンが、10 月14日より新宿伊勢丹ポップアップストア開催。最新コレクションに加え、人気のカスタマイズオーダーのクラッチバッグやアニバーサリー限定ツィ―ドを使ったアイテムなどが店頭に並ぶ。その他、ほぼ日手帳とのコラボレーション手帳カバーも販売。オンリーショップのないコーヘンの全ラインアップが一堂にそろう貴重な機会だ。
増田海治郎
  • 米富繊維の大江健社長
  • 日本アパレルブランドとダブルネームの商品開発の依頼も多い。
  • 山形の米富繊維本社の玄関。
  • 本社の玄関にはニットテキスタイルがディスプレイされている。
  • 米富繊維の工場内。
  • 3、5ゲージなどローゲージが米富繊維の主力。
  • 紡績の機械の前でインタビューに応じる大江社長
  • 交編の技術について語る大江社長
  • 米富繊維のニットツイード
  • 米富繊維のニットツイード
  • 米富繊維のニットツイード
  • デザインは主に大江社長を含め、2、3名が担当している。
  • ニットライダースはコーヘンの代名詞。
  • ツイードの上からプリントを施した特殊なテキスタイルを使用。15SSのジャケット。
  • フリースのように見えるがこれもニットテキスタイル。
  • 1万数千枚もの個性派ニットを開発。交編という技術を伝える「コーヘン」【山形ニット紀行 Vol.1--米富繊維】
  • ベテランと若手の従業員がコミュニケーションを取りながら作業している。
  • 膨大な数のアーカイブテキスタイルが保存されている資料室。
  • 資料室を案内する大江社長。
  • ぎっしりとアーカイブテキスタイルが保管されている。
ページトップへ